・日常用語の「役所」とは、意味が異なります。
・行政法学上の定義と、実務での具体的な見え方を整理して解説します。
・結論を言うと、行政庁とは「国や自治体の代わりに意思決定をし、対外的に(国民に対して)それを表示する権限を持つ『人(または機関)』」のこと。
・建物(役所)ではなく、「ハンコを押す権限を持つボス」とイメージすると分かりやすいです。
まず、ここを区別するとスッキリします。
1 「行政庁」と「行政主体」の違い
⑴ 行政主体(法人そのもの)
権利や義務の帰属先となる「団体」です。
例:日本国、岩手県、北上市
(会社で言えば「株式会社○○」という法人格)
⑵ 行政庁(決定権者)
その団体のために働き、実際に処分を下す「機関(役割)」です。
例:国土交通大臣〇〇、岩手県知事〇〇、北上市長〇〇
(会社で言えば「代表取締役〇〇」)
2 具体的な事例(誰が「行政庁」か?)
役所に申請書を提出するとき、誰が「行政庁」にあたるのかを見てみましょう。
事例①:建設業許可の場合
・申請者が岩手県知事許可の申請書を作成し、土木センター(あるいは広域振興局 土木部)の窓口に提出したとします。
・窓口で対応するのは、土木センター(土木部)の職員(担当者)です。
・法律上の「行政庁」は担当者ではありません。
〇 行政庁: 「岩手県知事〇〇」
解説: 許可証には「岩手県知事 〇〇」の名前で印が押されます。
「許可する」という意思決定を、対外的に表示するのは知事〇〇だからです。
事例②:税務署の場合
・確定申告書を提出したり、税務調査を受けたりする場合です。
〇 行政庁: 「花巻税務署長」
解説: 国税庁長官ではなく、現場での処分権限を持つ「税務署長」が行政庁となります。
更正処分などの通知書も署長名で来ます。
事例③:警察(風営法や運転免許)の場合
・ここは少し特殊で、「合議制(委員会)」が行政庁になります。
〇 行政庁: 「岩手県公安委員会」
解説: 警察署長や警察本部長が行政庁になるケースもありますが、
風俗営業許可や運転免許の交付などは、トップである「公安委員会」が行政庁として機能します。
3 なぜ「行政庁」の特定が重要なのか?
実務上、行政庁が誰かを知っておく必要があるのは、主に以下の2つの場面です。
(1) 申請書の「宛名」
申請書の表紙には、必ず「様」を書きます。
ここには行政庁の職名を書きます。
〇 岩手県知事〇〇 様
× 岩手県庁 様
× 岩手県土木部 様
(2) 不服申立て(審査請求)の相手
・もし、許可が下りず「不許可処分」になった場合、文句を言う(審査請求する)相手や、裁判で訴える相手(被告)を間違えてはいけません。
・「岩手県」を訴えるのか、「岩手県知事〇〇(行政庁)」の処分を取り消したいのか、法律上の区別が必要になります。
※行政事件訴訟法では、被告は原則として行政主体(県など)になりますが、処分の取消しを求める対象は行政庁の行為です。
4 部下(補助機関)との違い
・決裁システムで考えると分かりやすいです。
●補助機関(ほじょきかん): 起案し、調査し、大臣や知事のお膳立てをする人たち。
・副知事、部長、課長、係長、主事など
・行政庁: 最終的にその決定を「自分の名前」で外に出す人。
⇒岩手県知事○○、北上市長〇〇など
※ただし、権限の「委任」が行われている場合は、部長や事務所長が「行政庁」になる場合もある。
例:県知事から権限委任を受けた「広域振興局長」名で処分が出る場合、その局長が行政庁となる。
5 まとめ
⑴ 行政庁とは、「県庁」「市役所」という建物ではなく、「知事」や「市長」といった『決定権を持つポスト』のこと。
⑵ 見分け方:
許可証や命令書の一番下にハンコが押されている人の肩書きが、その事案における「行政庁」です。
⑶ 申請者が申請書類を作るとき、「この書類の宛名は誰か(誰が許可を出すのか)」を意識することが、すなわち「行政庁」を意識することになります。
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