令和2年7月の「規制改革実施計画」(菅内閣:閣議決定)によって、「原則」行政手続きを行う際、押印が廃止されました。
◎ 国の行政手続きの約99%において、で押印が廃止されたという状況です。
◎ しかし、押印廃止=100%ハンコが全滅した、と考えることは、かなり危険です。
1 規制改革の全体像
令和2年(2020年)7月、河野太郎行革担当大臣(当時の菅内閣)の号令により、全省庁で「ハンコ見直し」が行われました。
・対象: 内閣府など全ての省庁。
・結果: 認印(三文判)を押していたような、約1万5000種類の行政手続きのうち、99%以上で押印が不要。
・例:建設業許可申請書の表紙、個人の所得税の確定申告書、年末調整書類、
★婚姻届(2人の証人も不要)→ただし、署名は必要(訂正も署名)
2 「例外」としてハンコが残ったもの(実印必須)
残念ながら、ハンコが全てなくなったわけではありません。
「実印+印鑑登録証明書」がセットで必要な手続きは、「本人確認の厳格さ」が求められるため、現在も押印義務が残っています。
(例)
・不動産登記(法務省 法務局)
・商業、法人登記の一部(法務省 法務局)
・普通自動車の登録(国交省 運輸支局)
・銀行融資、抵当権設定に関する契約(金融庁-各金融機関)
これらは「資産や権利」に直結するため、簡単には廃止できない「聖域」となっています。
3 自治体の対応
国の動きに合わせて、岩手県など各地方自治体も、条例や規則を改正し、ほとんどの様式で押印を廃止しました。
(現状)
ほとんどの申請書(住民票の写しなど)は、「氏名を自署」だけでOKとなり、ハンコは不要になっています。
4 行政書士(士業)実務における「落とし穴」
役所の様式でハンコが不要になったことと、行政書士(士業)が依頼者からハンコをもらわなくていいことは、まったく異なります。
① 委任状の問題
役所の申請書自体は「ハンコ不要」でも、それを他人が代理申請するための「委任状」
(行政側が例示している委任状は、押印不要となっているものもある。)
しかし、依然として「押印(できれば実印)」を求められている場合も、いくつかあります。
後日、依頼者から「そんな申請頼んでいない!」と言われた際、ハンコがない委任状では、トラブルになる危険が高いのも現状です。
② 真正性の証明(実務上)
例として、許可申請でよくある様式に、「実務経験証明書」などがあるが、法的には押印廃止されていても、証明者(前の会社など)にハンコを押してもらった方が、審査官に対する説得力(文書の真正性)が増すケースもあります。
5 行政手続きでの整理
国の動き: 全省庁において、認印の押印は、原則廃止されました。
残っているものとして、 実印と印鑑登録証明書が必要な手続きは、現在もハンコは必須です。
<行政書士藤井等事務所の実務上の対応>
① 様式上「押印欄」が消えていても、「委任状」や「契約書」には、依頼者の本人確認を行うというスタンスから押印(実印、あるいは本人の署名)を、原則いただいています。
② 当事務所のスタンスとして、「様式上はハンコ不要」という知識を持ちつつ、「念のため頂きます」という慎重な姿勢で対応しています。
6 相続の分野
この分野は、「脱ハンコ」の流れは、ほとんど及んでいません。
むしろ、この分野は「ハンコ(特に実印)が絶対的な効力を持つ、最後の聖域」と言っても過言ではありません。
行政手続き(役所への申請)でのハンコは廃止されましたが、
① 民法(身分行為・財産行為)
② 不動産登記法
の世界では、ハンコは必須アイテムです。
<遺産分割協議書(実印が必須)>
法律上(民法上)は、相続人全員が合意していれば、口頭でも成立します。
しかし、実務上は「実印」と「印鑑証明書」がなければ、何も手続きが進みません。
⑴ 不動産登記(法務局)
相続登記(名義変更)をする際、法務局は「遺産分割協議書に押されたハンコが実印であること」と「印鑑登録証明書の添付」を、厳格に要求します。
これがないと却下されます。
(※不動産登記規則:実印の押印義務が明確に残っています)
⑵ 銀行手続き(預金の解約)
金融機関も同様です。
故人の口座を解約するには、相続人全員の実印と印鑑登録証明書がセットになった協議書が必要です。
【行政書士としての対応】
・したがって、行政書士が遺産分割協議書を作成する場合、「署名(記名)+ 実印の押印」は絶対のルールです。
・ここを電子署名や認印で済ませようとすると、後続の手続き(登記や銀行)でトラブルとなり、依頼者に迷惑をかけます。
7 遺言の分野
ここはさらに厳格です。
「ハンコがないと、紙切れ(無効)」になります。
〇 民法第968条(自筆証書遺言):
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
と条文に明記されています。
ここでの「印」は、実印である必要までは書かれていませんが(認印や拇印でも判例上有効)、「押印すること自体」は必須要件です。
【落とし穴】
もし、高齢者が一生懸命書いた遺言書でも、最後にハンコを押し忘れていたら、その遺言書は法的に「無効(ただの手紙)」となり、一切の効力を持ちません。
この規定は、規制改革(脱ハンコ)の影響を受けておらず、現在も厳格に運用されています。
8 なぜこの分野だけ「ハンコ」が残るのか?
行政手続き(役所への届出)は「効率」重視で廃止されました。
しかし、相続や遺言は「なりすまし防止」と「本人の真意」が最優先されるからです。
〇リスクの大きさ:
相続は数千万円、数億円の財産が動くため、詐欺やなりすましのリスクが極めて高いです。
〇紛争防止:
「この遺言書は偽物だ!」「協議書に勝手に名前を書かれた!」という親族間トラブルを防ぐため、「実印を押して、印鑑証明書を出す」という、心理的にも物理的にも重いハードルをあえて残しています。
9 結論
行政書士藤井等事務所においては、相続・遺言分野を取り扱う際は、「世の中は脱ハンコでも、ここは別世界」と認識で対応します。
・遺産分割協議書: 必ず「実印」をもらう。
・自筆証書遺言の指導: 必ず「押印」を確認する(できれば実印推奨)。
10 お問い合わせ
行政書士藤井等事務所
⑴ お問い合わせフォーム
https://office-fujiihitoshi.com/script/mailform/toiawase/
⑵ 事務所ホームページ<トップページ>
https://office-fujiihitoshi.com/

.jpg)


