「医療法人の理事長に就任したが、法的な責任の範囲はどこまで?」
「万が一、法人に損害が出たら、名前を連ねているだけの理事も責任を負うの?」
「監事って、結局何をすればいいの?」
こんな悩みはありませんか?
その悩み、今回の説明で解決できます。
医療法人の役員(理事・理事長・監事)が持つ「権限」と、それ以上に重い「法的責任」は、非常に複雑です。
今回の提案は、あなたのお困りごとを解決する内容として、知らなかったでは済まされない役員の責任について、具体例を交えて分かりやすく紹介します。
1 医療法人役員の「責任」とは?
医療法人の役員になると、個人でクリニックを経営していた頃とは比較にならないほど重い「責任」が生じます。
この責任は、大きく分けて「法人に対する責任」と「第三者に対する責任」の2つに分類されます。
1-1. 法人に対する責任
まず、医療法人と役員(理事・監事)の関係は、法律上「委任関係」とされています。
これは、法人が役員に対して「法人の運営を任せます」とお願いしている状態です。
任された役員は、その職業や社会的地位に応じて「一般的に期待されるレベルの注意」を払って職務を遂行する義務を負います。
これを「善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)」と呼びます。
簡単に言えば、「医療法人の運営を任されたプロとして、当然払うべき注意を払いなさい」という義務です。
もし、この義務を怠り(これを「任務懈怠(にんむけたい)」と言います)、その結果として医療法人に損害を与えてしまった場合、役員は法人に対して損害を賠償する責任を負います。
<具体的な義務違反(任務懈怠)の例>
⑴ 放漫経営の放置:
理事長が明らかに無謀な投資(例:採算度外視の分院展開)をしようとしているのを、他の理事が「理事長には逆らえない」と理事会で承認してしまい、結果として法人が多額の負債を抱えた。
⑵ 職員の監督不行き届き:
経理担当の職員が長期間にわたり法人の資金を横領していたが、理事会でのチェック体制が甘く、誰も気づかなかった。
⑶ 法令違反の黙認:
医療法や関連法規に違反するような運営(例:人員配置基準の未達を隠蔽)が行われていることを知りながら、監事がそれを指摘せず、監査報告書にも記載しなかった。
「名前だけの理事」「お飾りの監事」のつもりでも、こうした事態が起きた場合、「知らなかった」「関与していなかった」という言い訳は通用せず、他の役員と連帯して責任を問われる可能性があるのです。
1-2. 第三者(銀行・患者等)に対する責任
役員が責任を負う相手は、法人内部だけではありません。
職務を行う際に「悪意(わざと)」または「重大な過失(うっかりでは済まされないレベルの不注意)」があった場合、それによって損害を受けた第三者(取引先、金融機関、患者など)に対しても、個人として損害賠償責任を負うことが定められています。
<具体的な第三者責任の例>
⑴ 粉飾決算による融資:
金融機関から融資を受けるために、理事長が主導して実態とは異なる決算書を作成し、提出した。融資後に経営破綻し、銀行が貸付金を回収できなくなった場合、銀行は「騙された」として理事長や、それを見逃した監事個人に対して損害賠償を請求する可能性があります。
⑵ 虚偽の監査報告書:
監事が、法人の財産状況が実際には危機的であると知りながら、「問題なし」とする虚偽の監査報告書を作成した。
これを信用して法人と取引した業者が、代金を回収できなくなった場合、監事は責任を問われる可能性があります。
単なる「過失(うっかりミス)」であれば直ちに第三者責任を負うわけではありませんが、「重大な過失」と判断されれば、法人の負債を役員個人が背負うという最悪の事態も起こり得るのです。
2 理事長の強大な権限とセットになる「義務」と「責任」
医療法人において、理事長は極めて大きな権限を持っています。
しかし、その権限は義務・責任と表裏一体です。
2-1. 理事長の権限
理事長は、医療法人を代表し、法人の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為(例:契約の締結、職員の雇用、資金の借入など)を行う権限を有します。
まさに法人の「顔」であり、トップとしての強いリーダーシップが求められます。
2-2. 理事長の義務
強い権限を持つからこそ、理事長には独断専行を防ぐための重要な「義務」が課されています。
それは、「3ヶ月に1回以上(または定款で定めた頻度で)、自己の職務の執行状況を理事会に報告しなければならない」という義務です。
これは、他の理事や監事が理事長の業務執行をチェックするための非常に重要な機会です。
「忙しいから」「形式的なものだから」とこの報告を怠ったり、理事会自体を開催しなかったりすると、それ自体が「善管注意義務違反」とみなされる可能性があります。
2-3. 理事長の責任
もちろん、理事長も役員の一人ですから、前述の「善管注意義務違反による法人への責任(1-1)」や「悪意・重過失による第三者への責任(1-2)」を負います。
むしろ、業務執行の中心である理事長は、他の役員よりもその責任が重く問われる傾向にあります。
3 理事の権限と責任
「理事長(院長)に頼まれて、断れずに理事になった」という方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、「名前だけの理事」は法的に一切認められません。
3-1. 理事の権限
理事は、理事会の構成員として、医療法人の重要な業務執行(例:事業計画の決定、重要な資産の処分、多額の借財など)の意思決定に参画する権限と責務があります。
理事会での議決権を行使することは、理事の重要な仕事です。
3-2. 理事の義務①:利益相反取引の監視と承認
理事が特に注意すべき義務が「競業」と「利益相反取引」の制限です。
⑴ 競業取引:
理事が、医療法人と「同種の事業(例:別のクリニック経営)」を自己または第三者のために行うこと。
⑵ 利益相反取引:
理事の利益と医療法人の利益が相反する(ぶつかり合う)取引のこと。
これらの取引を行う場合、理事は事前に理事会でその取引の重要な事実を開示し、「理事会の承認」を得なければなりません。
<特に注意すべき利益相反取引の例>
⑴ MS法人との取引:
理事長が経営するMS法人(メディカル・サービス法人)から、医療法人が医療機器をリースしたり、清掃業務を委託したりする。
⑵ 理事個人との取引:
理事長個人が所有する土地・建物を、医療法人が相場で買い取ったり、賃借したりする。
⑶ 債務保証:
医療法人が、理事長個人の金融機関からの借入の連帯保証人になる。
これらの取引は、一方が得をすれば、もう一方が損をする可能性があります(例:MS法人への委託料が相場より不当に高い)。
そのため、法人の利益が不当に害されないよう、他の理事が集まる理事会での厳格なチェック(承認)が義務付けられているのです。
この承認手続きを経ずに行った取引は、後で問題になる可能性が極めて高くなります。
3-3. 理事の義務②:法人の危険を察知する「報告義務」
理事は、法人の運営に関わる中で、「医療法人に著しい損害を及ぼすおそれのある事実」を発見したときは、直ちに監事に報告する義務があります。
「理事長の不正を見つけたが、波風を立てたくないから黙っていよう」ということは許されず、内部から問題を指摘する役割も求められています。
3-4. 理事の責任:「知らなかった」では済まされない
理事会に出席せず、理事長にすべて任せきりにしていたとしても、万が一、理事長による不正な業務執行や経営判断ミスで法人に損害が生じた場合、他の理事も「監督不行き届き」として、理事長と同様の損害賠償責任を負うリスクがあります。
4 法人運営の「お目付け役」!監事の重要な役割とは
監事は、理事の業務執行をチェックする「お目付け役」であり、法人運営の健全性を保つために不可欠な存在です。
4-1. 監事の権限と義務:業務と財産の「監査」
監事の主な義務は以下の通りです。
⑴ 業務監査:
理事の職務執行が法令や定款に従って正しく行われているかを監査する。
⑵ 会計監査:
法人の財産状況(決算書類など)が適正かを監査する。
⑶ 監査報告書の作成・提出:
監査結果をまとめ、理事会および社員総会に提出する。
理事会への出席・意見陳述: 監事は理事会に出席する義務があり、必要があると認めるときは意見を述べなければなりません。
また、監査の結果、理事の行為が違法・不当であったり、法人に著しい損害を与える恐れがあると判断した場合は、理事に対してその行為をやめるよう請求する(違法行為差止請求権)という強い権限も持っています。
4-2. 監事の選任:なぜ「親族」はなれないのか?
監事の職務は、理事の業務執行を厳しくチェックすることです。
そのため、理事と馴れ合いの関係にある人物では、公正な監査が期待できません。
法律(医療法)では、監事は「医療法人の理事または職員(院長や事務長など)を兼ねてはならない」と厳しく定められています(兼職禁止)。
さらに、厚生労働省の「医療法人運営管理指導要綱」や県の行政指導では、「理事の親族(配偶者や三親等内の親族など)」や「法人と利害関係のある者(顧問税理士など)」は、公正な監査を妨げる可能性があるとして、監事に就任することが認められない(または望ましくないとされる)のが実務上の運用です。
「院長の妻を監事にする」といった親族経営は、監事の独立性を確保できないため、原則として認められないと考えるべきです。
4-3. 監事の責任:監査の不備が問われるケース
監事も役員の一員であり、その任務(監査)を怠ったことで法人に損害を与えれば、理事と同様に損害賠償責任を負います。
例えば、理事の不正行為や粉飾決算の兆候を見逃し、監査報告書に「適正」と記載してしまった結果、法人の損害が拡大した場合、監事としての責任を厳しく追及されることになります。
5 まとめ
医療法人の設立、役員の変更、そして日々の運営において、行政機関への許認可申請や届出は避けて通れません。
しかし、理事や監事の責任がこれほど重いとは、と感じられた方も多いのではないでしょうか。
これらの複雑な法的手続きや、運営上の法的リスクについて、何から手を付けていいか分からないのが現状かと思います。
そのようなときこそ、専門家である行政書士にトータルでお任せいただくことで、先生方や事務職員の皆様は、本来の医療業務に安心して専念することができます。
行政機関への複雑な対応や、法令遵守(コンプライアンス)体制の整備は、専門家に任せることでスムーズに進めることが可能です。
当事務所では、常に医療の現場サイドに寄り添い、それぞれの法人様の事情に合わせた最善の解決策をご提案いたします。
なお、当事務所の最大の特徴として、弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士といった他の専門家と強力な連携を組んでおります。
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さらに、私自身が元岩手県職員として企業誘致や県立大学新設といった行政内部の業務に携わってきた経験がございます。
この経験に基づき、国や県、保健所といった行政機関の考え方を深く理解し、皆様の代理人として素早く的確な調整・対応ができることは、他の事務所にはない「強み」であると自負しております。
他の事務所と異なり、土日、祝日も朝8時から夜20時まで対応しておりますので、診療後やお休みの日に、じっくりとご相談いただくことが可能です。
医療法人の運営や手続きでお悩みの際は、ぜひ一度、行政書士藤井等事務所にご相談ください。
★注意事項
厚生労働省(地方厚生局)や県、保健所への医療法人に関する許認可申請や届出書の作成・提出代理は、行政書士法に基づき、行政書士にのみ認められた業務です。
行政書士の資格を持たない者が、他人の依頼を受けて報酬を得てこれらの業務を行うことは、法律で固く禁止されています。
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