「医療法人を設立したいが、”基金”と”社員”の違いがよく分からない」
「昔の”出資(持分)”とは何が違うのだろう?」
こんな悩みはありませんか?
平成19年の法改正以降、医療法人の根幹となった「基金」制度は非常に重要ですが、同時に複雑な仕組みです。
その悩みは今回の説明で解決できます。
今回の記事は、医療法人設立の成否を分ける「基金」と「社員」の役割について、医師・歯科医師の先生方のお困りごとを解決する内容として、4つのポイントに絞って徹底解説します。
1 医療法人の「基金」制度とは何か?
医療法人を設立・運営していくためには、当然ながら元手となる財産(運転資金や設備)が必要です。この「元手」を法人に拠出(きょしゅつ=差し出すこと)する方法として、現在(平成19年4月1日以降)の医療法人設立で主流となっているのが「基金(ききん)制度」です。
1-1. 基金 = 返還義務のある「無利子の借入金」
基金とは、一言でいえば「法人に対する無利子の貸付金」のようなものです。
拠出者(お金やモノを出した人)に対して、法人が「将来、経営が軌道に乗って剰余金が出たら、合意したルールに基づいて返還します」という義務を負う財産です。
重要な特徴は以下の3点です。
① 利息が付けられない
あくまで「無利子」が原則です。
② 返還義務がある
単なる「寄付(あげっぱなし)」とは異なり、拠出者には将来的に返還を受ける権利が残ります。
③ 定款への記載が必須
この基金制度を採用するには、法人の根本ルールである「定款(ていかん)」に、基金に関する定めを置かなければなりません。
1-2. 基金の返還は「いつでもOK」ではない
「返還義務があるなら、いつでも返してもらえる」と誤解されがちですが、基金の返還には厳しいルールがあります。
医療法人の財産的基礎を揺るがさないよう、「定時社員総会の決議」を経た上で、「純資産額が基金の総額を超える場合に、その超過額の範囲内でしか」返還できません。
つまり、法人が赤字続きで、元手を食いつぶしているような状態では返還できないのです。
2 なぜ今「基金」なのか?(出資持分制度の廃止)
「基金」を理解するためには、なぜこの制度が主流になったのか、その歴史的背景を知る必要があります。
2-1. 平成19年以前の「出資持分あり」医療法人
平成19年3月31日までに設立された医療法人は、「出資持分(しゅっしもちぶん)あり」の形態が主流でした。
これは、株式会社の「株式」に似た制度です。
⑴ メリット:
出資額に応じて法人の財産権(持分)を持ち、法人が解散した時には残余財産を受け取る権利がありました。
⑵ デメリット:
医療法人が地域医療の中核として成長し、内部留保(利益)が積み上がると、この「持分」の評価額が相続時に莫大な金額になる事態が多発しました。
⑶ 問題点:
①相続問題:
院長の死亡退職時、相続人が巨額の相続税を払えず、持分の払戻請求が起こり、法人の財産が流出して経営危機に陥るケースがありました。
②事業承継の阻害:
後継者が、先代の莫大な持分を買い取れず、承継が進まない問題も発生しました。
2-2. 平成19年以降の「出資持分なし」医療法人
上記の問題を解決し、医療法人の非営利性・公益性を徹底するため、平成19年4月1日以降に設立される医療法人は、すべて「出資持分なし」の形態(正確には「持分の定めのない医療法人」)となりました。
しかし、ここで新たな問題が生まれます。
「持分(出資)ができないなら、どうやって設立時の元手を集めるのか?」
この解決策として用意されたのが、「寄付」と「基金」です。
⑴ 寄付:
法人が財産を無償でもらうことです。返還義務は一切ありません。
全額を寄付で賄うことも可能ですが、拠出した財産が一切戻ってこないため、高額な設備資金などを拠出する側には大きな抵抗があります。
⑵ 基金:
そこで登場したのが基金です。
これは「持分(財産権)」にはならないが、「返還請求権(貸付金)」にはなる、という絶妙なバランスを持った制度です。
これにより、拠出者は財産を安心して拠出でき、法人は非営利性を保ったまま元手を確保できるのです。
3 「基金拠出者」と「社員」は全くの別物
医療法人設立時に最も混乱するのが、「基金を出す人(拠出者)」と「法人のメンバー(社員)」の関係性です。
これは明確に区別して理解する必要があります。
3-1.「社員」とは何か?
まず、医療法人でいう「社員」とは、「従業員(スタッフ)」のことではありません。
医療法人の最高意思決定機関である「社員総会」の構成員(議決権を持つメンバー)を指します。
株式会社でいうところの「株主」に近い存在です。
社員は、社員総会において1人1個の議決権を持ち、以下のような法人の最重要事項を決定します。
① 定款の変更
② 役員(理事・監事)の選任・解任
③ 事業計画や予算の承認
④ 基金の返還の決定
⑤ 法人の解散 など
3-2.「基金」と「社員」の4つの関係
① 基金を拠出したからといって、社員になれるわけではない。
② 社員だからといって、基金を拠出する義務はない。
③ 基金を拠出していなくても、社員であれば議決権(1票)を持つ。
④ 基金をいくら多く拠出していても、社員でなければ議決権はゼロ。
この「財産(基金)」と「議決権(社員)」が完全に分離されている点が、株式会社と大きく異なる特徴です。
3-3. 誰が「拠出者」になれて、誰が「社員」になれるのか?
⑴ 基金の拠出者:
制限は一切ありません。
個人はもちろん、営利を目的とする株式会社(例えばMS法人など)や、別法人でも、誰でも拠出者になることができます。
⑵ 社員:
医療法人の非営利性を担保するため、営利法人は社員になることができません。
個人、または非営利法人(特定非営利活動法人など)のみが社員となれます。
【実務上のアドバイス】
法人のガバナンス(統治)を安定させるため、実務上は、設立時の理事長(院長)が基金の最大拠出者となり、かつ、社員総会も安定的に運営できる親族・知人で構成することが一般的です。
このバランス設計が、将来のトラブルを未然に防ぐ鍵となります。
4 基金にできる財産と「基本財産」のワナ
最後に、具体的にどのような財産を基金として拠出できるのか、そしてそこに潜む「管理上のワナ」について解説します。
4-1. 基金として拠出できる財産
以下のような、法人の業務に必要な財産が対象となります。
① 現金・預貯金(運転資金)
② 医業未収金(個人クリニックから法人への引継ぎ)
③ 医薬品・診療材料(在庫)
④ 土地・建物(クリニックの敷地・建物)
⑤ 医療用機器・備品
⑥ 敷金・保証金(賃貸物件の場合)
ただし、現金預金以外(②~⑥)を拠出する場合は、その財産が「本当にその価値があるのか」を証明する必要があります。
恣意的な評価を防ぐため、公認会計士や税理士による「価額証明(時価評価レポート)」の添付を求められるのが一般的です。
逆に、院長の自宅やプライベートな自動車など、医業に無関係な財産は基金として拠出できません。
4-2. 拠出財産を縛る「基本財産」と「通常財産」
拠出した基金(財産)は、定款上、以下の2種類に分類されます。
⑴ 基本財産:
法人の業務遂行に不可欠な財産(例:クリニックの土地・建物、高額な医療機器など)
⑵ 通常財産:
基本財産以外の財産(例:運転資金としての現金、医薬品、未収金など)
4-3.【最重要】不動産を「基本財産」にするワナ
ここで、設立実務における最大の注意点があります。
それは、「安易に土地・建物を基本財産として拠出しないこと」です。
なぜなら、一度「基本財産」に設定された財産は、それを売却したり、担保に入れたり(例:銀行融資の抵当権設定)する際に、県知事の「認可」が必要になるからです。
この「認可」は非常にハードルが高く、時間もかかります。
将来、「新しい医療機器導入のために、土地を担保に融資を受けたい」と思っても、県の認可が下りず、迅速な資金調達ができない、という事態に陥りかねません。
【実務上のアドバイス】
将来の柔軟な経営(銀行融資など)を考慮し、設立時の基金は「現金・預貯金」のみで構成し、土地・建物は法人名義にせず、院長個人(または資産管理法人)から法人が「賃借(リース)」する形態を取るのが最も無難かつ賢明な方法です。
これにより、不動産は「基本財産」として拘束されず、法人は「通常財産」である現金だけでスピーディーに運営できます。
5 まとめ
医療法人の設立、特に「基金」と「社員」の設計は、設立後の法人運営、将来の事業承継、さらには相続まで見据えた、非常に専門的かつ重要なプロセスです。
「何から手を付けていいか分からない」「県の保健所や厚生局との協議が不安だ」というのが、多くの先生方の本音ではないでしょうか。
これらの複雑な許認可手続きや、数十ページにも及ぶ定款・設立書類の作成は、すべて専門家である行政書士にトータルで任せることで、先生方は日々の診療に集中でき、何より「安心」が得られます。
当事務所は、医療法人設立・運営のサポートに力を入れており、単なる書類作成代行にとどまりません。
常に医療の現場サイドに寄り添い、先生方のビジョンを実現するための最善のガバナンス設計、資金計画をご提案します。
また、当事務所の最大の強みは、弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士といった他士業との強固な連携体制にあります。
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さらに、私(藤井)自身が元岩手県職員として、企業誘致や県立大学の新設といった大型プロジェクトの行政調整に携わってきた経験があります。
国(地方厚生局)や都道府県、保健所といった行政機関の思考や手続きの進め方を熟知しているからこそ、先生方の代理人として、どこよりもスムーズかつ的確な対応・調整ができると自負しております。
また、土日、祝日も対応しており、相談時間も8時から20時として、皆様の利便性を優先しております。
初回のご相談は無料です。
岩手・宮城・東北全域のクリニック様を全力でサポートいたします。ぜひ一度、お気軽にお悩みをお聞かせください。
【注意事項】
厚生労働省(地方厚生局)や県、保健所への医療法人に関する許認可申請は、「行政書士」が報酬を得て代理人として行うことが法律(行政書士法)で認められた、唯一の国家資格者です。
行政書士の資格を持たない者が、他人の依頼を受けて、これらの申請を代理することは、法律で固く禁止されています。
6 お問い合わせ
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