
「請負金額500万円未満の軽微な工事だから、主任技術者は配置しなくても大丈夫だよね?」
「建設業許可を持っているけれど、許可外の軽微な工事の場合はどうなるの?」
こんな疑問を持ったことはありませんか?
ご安心ください。
その疑問は、建設業法が定める「建設業者」の定義と、技術者配置のルールを正しく理解することで解決できます。
この記事では、多くの人が誤解しがちな「軽微な建設工事」における主任技術者の配置義務について、会社の状況に応じた3つのケース別に分かりやすく解説します。
建設工事の現場における品質と安全の確保は、建設業を営む上で最も重要な責務の一つです。
その中心的な役割を担うのが、現場の技術上の管理を行う「主任技術者」です。建設業法では、この主任技術者の配置を義務付けていますが、その義務が誰に、そしてどのような工事に適用されるのかについては、しばしば誤解が生じています。
特に、「500万円未満の軽微な建設工事なら、主任技術者は不要」と一括りに考えてしまうのは、企業のコンプライアンス上、非常に危険な判断です。
今回は、この主任技術者の配置義務に関するルールを、具体的なケースに分けて詳しく見ていきましょう。
1すべての基本となる建設業法第26条のルール
まず、法律の条文そのものを確認することが、正しい理解への第一歩です。建設業法第26条第1項には、次のように定められています。
「建設業者は、その請け負つた建設工事を施工するときは、…(中略)…主任技術者を置かなければならない。」
この条文には、2つの重要なポイントが隠されています。
1-1. ポイント①:義務の主体は「建設業者」
条文の主語は「建設業者」となっています。そして、建設業法において「建設業者」とは、「建設業の許可を受けて建設業を営む者」と明確に定義されています。
つまり、この配置義務は、まず第一に「建設業許可を持っている会社」に課せられているということです。
1-2. ポイント②:請負金額による例外規定がない
この第26条の条文には、「軽微な工事の場合は除く」といった、請負金額に関する例外規定がありません。
この2つのポイントを組み合わせることで、「建設業許可業者が、許可を受けている業種の工事を施工する場合は、たとえ500万円未満の軽微な工事であっても、主任技術者を配置しなければならない」という原則が導き出されます。
2ケース別解説:主任技術者の配置義務は誰にあるのか?
それでは、会社の状況によって、主任技術者の配置義務がどう変わるのか、代表的な3つのケースで見ていきましょう。
2-1. ケース①:許可業者が、許可を持っている業種の工事を行う場合
これが最も基本となるパターンです。
例えば、「管工事業」の許可を持っている会社が、400万円の管工事を請け負ったとします。
この会社は「建設業者」であり、請け負った工事も許可業種内のものです。したがって、たとえ工事金額が500万円未満であっても、主任技術者の配置義務は「あり」となります。
2-2. ケース②:無許可業者が、軽微な建設工事を行う場合
次に、建設業許可を持たず、500万円未満の軽微な建設工事のみを専門に請け負っている事業者の場合です。
この事業者は、法律上の「建設業者」には該当しません。そのため、建設業法第26条の主任技術者配置義務は、そもそも適用されません。よって、このケースでは主任技術者の配置義務は「なし」となります。
2-3. ケース③:許可業者が、「許可外」の軽微な工事を行う場合
これが、最も判断に迷い、注意が必要なケースです。
例えば、「管工事業」の許可を持っている会社が、専門外である300万円の「塗装工事」を請け負った場合を考えてみましょう。
この場合、会社は「管工事業」の許可業者ではありますが、請け負った「塗装工事」については許可を持っていません。
そのため、この塗装工事に関しては、ケース②の「無許可業者」と同じ立場として扱われます。
したがって、このケースにおいても、主任技術者の配置義務は法律上は「なし」と解釈されます。
3結論が一目でわかる!
ここまでの内容を、分かりやすくテキスト形式の表にまとめました。
自社の状況と照らし合わせてご確認ください。
【状況別:主任技術者の配置義務の有無】
▼ケース1:許可業者が「許可業種内」の工事をする場合
たとえ500万円未満の工事でも…
⇒【配置義務は「あり」です】
▼ケース2:無許可業者が「軽微な工事」をする場合
500万円未満の工事なので…
⇒【配置義務は「なし」です】
▼ケース3:許可業者が「許可業種外」の軽微な工事をする場合
その工事については無許可扱いなので…
⇒【配置義務は「なし」です】
4整理
このように、主任技術者の配置義務は、単純に工事金額だけで判断できるものではなく、「自社が、その工事に対して許可業者という立場にあるかどうか」という視点が極めて重要になります。
このルールを誤解し、許可業者であるにもかかわらず軽微な工事で主任技術者を配置しないと、建設業法違反として監督処分の対象となる可能性がありますので、くれぐれもご注意ください。
もちろん、法律上の配置義務がないからといって、技術的な管理を疎かにして良いわけではありません。
安全で高品質な工事を提供し、顧客からの信頼を得るためには、工事の規模にかかわらず、適切な技術者が現場を管理する体制を整えることが、企業としての当然の責務と言えるでしょう。
5まとめ
建設工事における主任技術者の配置義務は、企業の許可状況によって解釈が異なる、非常に間違いやすいポイントの一つです。
「軽微な工事だから」という自己判断が、思わぬ法令違反に繋がることもあります。
自社の技術者配置体制や、請け負う工事の業種判断に少しでも不安を感じたら、ぜひ専門家にご相談ください。
当事務所は、建設業法務の専門家として、最新の法令に基づき、貴社のコンプライアンス体制構築をサポートいたします。
元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の「無限の可能性」を法務面から力強く支援します。
6お問い合わせ
行政書士藤井等事務所
(1) お問い合わせフォーム:
https://office-fujiihitoshi.com/script/mailform/toiawase/
(2) 事務所ホームページ<トップページ>:
https://office-fujiihitoshi.com/