
「事業承継で、前の会社の監督処分まで引き継いでしまうの?」
「合併を考えている相手先の会社が、過去に行政指導を受けていないか心配…」
「処分逃れのために会社を分割したら、どうなるのだろう?」
こんな、事業承継に潜むリスクに不安を感じていませんか?
ご安心ください。
その不安は、建設業法が定める「監督処分の承継」に関するルールを正しく理解することで、明確な対策を立てることができます。
この記事では、会社の合併・分割や事業譲渡といった事業承継の際に、行政処分がどのように扱われるのか、その重要なルールについて分かりやすく解説します。
建設業界において、M&Aによる事業の再編は、企業の成長戦略としてますます一般的になっています。
事業譲渡、会社合併、会社分割といった手法を通じて事業を承継する際、建設業許可を空白期間なく引き継ぐための「事前認可制度」も整備され、そのハードルは以前より下がりました。
しかし、ここで絶対に忘れてはならないのが、引き継ぐのは会社の資産や許可だけではないという厳しい現実です。
もし、元の会社が過去に建設業法違反を犯し、行政からの「監督処分」を受けていた場合、その処分の効果も、原則として新しい会社に引き継がれてしまうのです。
今回は、事業承継を成功させるために不可欠な、この「監督処分の承継」に関するルールについて詳しく見ていきましょう。
1大原則:監督処分からは逃れられない
まず、すべての基本となる大原則は、「不正行為を行った建設業者が、合併や会社分割をしても、監督処分から逃れることはできない」ということです。
これは、処分を免れるためだけに会社形態を変更するといった、脱法的な行為を防ぐための重要なルールです。
この原則を理解した上で、事業承継の「方法」によって、処分の承継のされ方がどう変わるのかを見ていく必要があります。
2正式な事業承継(事前認可)を行った場合のルール
建設業許可を空白期間なくスムーズに引き継ぐための正式な手続きが、合併・分割・事業譲渡における「事前認可制度」です。
この制度を利用して事業を承継した場合、処分の扱いは非常に明確です。
2-1. 処分の効果は、そのまま承継者へ
事前認可を受けて事業を承継した会社(譲受人、合併後の存続法人など)は、元の会社の建設業者としての地位を包括的に引き継ぎます。
したがって、元の会社が犯した不正行為に対する監督処分(指示・営業停止・許可取消)は、承継した新しい会社に対して行われます。
例えば、営業停止6ヶ月の処分期間中に、その会社が別の会社に吸収合併された場合、合併後の会社が、残りの期間の営業停止処分を引き継ぐことになります。
2-2. 「刑事罰」は承継されない
ここで重要なのは、承継されるのは、あくまで許可行政庁が下す「監督処分」であるという点です。
建設業法違反による「罰則(懲役や罰金といった刑事罰)」は、その違反行為を行った法人や個人そのものに対して科されるものです。
したがって、刑事罰が承継者に引き継がれることはありません。
ただし、元の会社の役員が、罰金以上の刑罰を受けたことで許可の「欠格要件」に該当していた場合、その役員が承継先の会社の役員に就任すると、承継先の会社も欠格要件に該当し、許可が受けられない(または取り消される)ということになりますので、細心の注意が必要です。
3事前認可を受けずに事業が引き継がれた場合のルール
事前認可制度を利用せず、例えば、ある会社が廃業し、その役員や従業員、機材などを引き継いで、別の会社が実質的に同じ事業を継続する、といったケースも考えられます。
このような場合、行政は、「事業の継続性・同一性」という観点から、監督処分の対象を判断します。
3-1. 判断の基準
元の会社と新しい会社が、役員の構成、従業員の状況、使用している施設や設備などから見て、「実質的に同じ会社」であると認められるかどうかが判断の分かれ目となります。
3-2. 処分が行われる2つのパターン
実質的に事業が引き継がれたと判断された場合、監督処分は以下のように行われます。
① 元の会社が既に廃業している場合:
事業を引き継いだ承継先の会社に対して、監督処分が行われます。
② 元の会社と承継先の両方が営業している場合:
不正行為を行った元の会社と、事業を引き継いだ承継先の会社の両方に対して、監督処分が行われる可能性があります。
このように、形式的に会社を変えたとしても、その実態が見透かされ、厳しい処分が下されることになるのです。
4整理
建設業における事業承継(M&A)は、企業の成長を加速させる強力な手段です。
しかし、その裏側には、承継対象となる企業のコンプライアンス履歴という、目に見えない大きなリスクが潜んでいます。
「相手先の会社は、過去に行政指導や監督処分を受けていないか」「許可の欠格要件に該当する役員はいないか」といった、徹底した事前のデューデリジェンス(リスク調査)こそが、事業承継を成功に導き、自社を予期せぬトラブルから守るための、最も重要な鍵となります。
5まとめ
建設業の事業承継(合併・分割・事業譲渡)において、承継元の会社が過去に受けた、あるいは受けるべき「監督処分」は、原則として承継先の会社に引き継がれます。
これは、処分逃れを防ぐための重要なルールです。
事業承継を検討する際には、相手先の資産や技術力だけでなく、そのコンプライアンス履歴を徹底的に調査することが不可欠です。
「このM&Aに、法的なリスクは潜んでいないだろうか」と少しでも不安に感じたら、ぜひ専門家にご相談ください。
当事務所は、建設業法務の専門家として、事業承継におけるデューデリジェンスから、複雑な事前認可手続きまでをトータルでサポートします。
元岩手県職員としての経験も活かし、貴社の安全で確実な事業承継を力強く支援いたします。
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