
「自社の役員が、プライベートで人身事故を起こしてしまった…会社の建設業許可に影響はあるのだろうか?」
「飲酒運転で役員が逮捕された場合、許可は取り消されてしまうのか?」
こんな、万が一の事態に強い不安を感じていませんか?
ご安心ください。
その不安は、建設業法が定める「許可の取消し」に関する2つの異なるルート、「監督処分」と「欠格要件」を正しく理解することで、リスクの所在が明確になります。
この記事では、役員の交通事故が、会社の生命線である建設業許可にどのような影響を及ぼすのか、その法的な判断基準を分かりやすく解説します。
建設業を営む企業にとって、建設業許可は事業の根幹をなす、まさに「命綱」とも言える存在です。
この大切な許可が失われる事態は、何としても避けなければなりません。
許可の取消しは、通常、一括下請負や技術者の不設置といった、建設業法に直接違反する「事業上の不正行為」によって引き起こされると考えるのが一般的です。
しかし、実は、役職員個人の「事業外」での行為、例えばプライベートで起こした交通事故が、会社の許可を揺るがす重大な事態に発展するケースがあることをご存知でしょうか。
今回は、この見過ごされがちながらも、極めて重要なリスクについて詳しく見ていきましょう。
1許可取消しに至る「2つのルート」
まず、建設業許可が取り消される法的なルートには、性質の異なる2つのものがあることを理解することが重要です。
1-1. ルート①:監督処分
これは、建設業法違反など、建設業の営業に関する不正行為に対して、許可行政庁(都道府県知事や国土交通大臣)が下す行政処分です。
「指示」「営業停止」と段階があり、最も重い処分が「許可取消」となります。
1-2. ルート②:欠格要件への該当
これは、法人の役員などが、法律で定められた特定の条件(欠格要件)に当てはまってしまった場合に、許可が自動的に取り消されるものです。
建設業法第8条に、その条件が列挙されています。
2交通事故は「監督処分」の対象となるか?
では、役員が起こした交通事故は、ルート①の「監督処分」の直接的な対象となるのでしょうか。
国土交通省が定める「監督処分の基準」を見てみると、処分の対象となるのは、主に以下のような行為です。
⑴公衆への危害:
施工ミスによる死傷事故など。
⑵契約に関する不誠実な行為:
談合、贈賄、一括下請負、虚偽申請など。
⑶他法令違反:
労働安全衛生法、建築基準法、法人税法など、建設業の営業に関わる法律への違反。
このように、監督処分は、あくまで「建設業の営業」そのものに関する不正行為を対象としています。
したがって、役員がプライベートで起こした交通事故は、原則として、この「監督処分」の直接の理由となって、直ちに許可が取り消される、ということにはなりません。
3本当のリスクは「欠格要件」にある
しかし、安心するのはまだ早いです。
本当のリスクは、ルート②の「欠格要件」に潜んでいます。
3-1. 交通事故と欠格要件を結びつける「禁錮以上の刑」
建設業許可の欠格要件の中には、「禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者」という規定があります。
つまり、交通事故そのものが欠格要件になるのではなく、交通事故の結果として科された「刑罰」が、「禁錮以上の刑」であった場合に、欠格要件に該当してしまうのです。
役員の一人がこの要件に該当した場合、会社は許可を維持できなくなり、許可は取り消されます。
そして、その日から5年間は、新たに許可を取得することもできません。
3-2. どのような交通事故で「禁錮以上の刑」になるのか?
刑罰の対象となるのは、物損事故ではなく、人を死傷させてしまった「人身事故」です。
人身事故の中でも、特に悪質・重大なケースにおいて、懲役刑や禁錮刑といった重い判決が下される可能性があります。
⑴ 危険運転致死傷罪:
飲酒運転、制御不能なほどの高速運転、悪質な信号無視などによって人を死傷させた場合。
極めて重い懲役刑が科されます。
⑵ 過失運転致死傷罪:
運転上の不注意によって人を死傷させた場合。
多くのケースは罰金刑で済みますが、被害が甚大であったり、過失の程度が大きかったり(例:ひき逃げ)すると、禁錮刑や懲役刑となる可能性があります。
このように、特に飲酒運転のような悪質な違反行為は、一瞬にして会社の許可を奪い去る、極めて高いリスクをはらんでいるのです。
4整理
建設業許可を維持し、企業を存続させていくためには、建設業法のルールを遵守するだけでは不十分です。
会社の役員や重要な従業員の一人ひとりが、現場の中だけでなく、その外での日常生活においても、社会の一員として、あらゆる法令を遵守する高いコンプライアンス意識を持つことが求められます。
たった一度の過ち、特に飲酒運転のような重大な違反が、多くの従業員の生活や、長年築き上げてきた会社の信用を、一瞬にして奪い去ってしまう可能性がある。
この厳しい現実を、経営者様も、従業員の皆様も、常に心に刻んでおく必要があるでしょう。
5まとめ
会社の役員が起こした交通事故が、会社の生命線である建設業許可を奪う。
これは、決して大げさな話ではありません。事故そのものではなく、その結果として「禁錮以上の刑」に処せられた場合、会社の役員は許可の欠格要件に該当し、許可は取り消され、その後5年間は再取得もできなくなります。
「自分は大丈夫」という油断が、取り返しのつかない事態を招きます。
コンプライアンスとは、現場のルールだけでなく、役職員一人ひとりの日々の行動そのものです。
当事務所は、建設業法務の専門家として、許可の維持管理に関するアドバイスはもちろん、企業全体のコンプライアンス体制構築のサポートも行っています。
ご不安な点は、お気軽にご相談ください。
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