
「親会社の優秀な技術者を、明日から子会社の現場責任者にしたい」
「グループ内での技術者交流を、許可の空白期間なくスムーズに行いたい」
「『即時配置可能型』という制度があるらしいが、具体的な要件や手続きが分からない」
こんなお悩みはありませんか?
ご安心ください。
その課題は、建設業法に設けられた「企業集団内の出向技術者に関する特例」を正しく理解することで解決できます。
この記事では、一定の企業グループに認められた、出向社員を即時に主任技術者等として配置できる制度について、その適用条件から証明方法までを分かりやすく解説します。
建設業界における技術者不足が深刻化する中、企業グループ全体で有能な人材をいかに柔軟かつ効果的に活用するかは、経営上の最重要課題の一つです。
しかし、建設業法が現場技術者に求める「直接的かつ恒常的な雇用関係」という原則は、親会社から子会社への技術者出向など、グループ内での機動的な人材配置の大きな壁となっていました。
この壁を取り払い、大企業グループの技術力を最大限に活用するために設けられたのが、「即時配置可能型」と呼ばれる特例制度です。
今回は、この専門的で、しかし非常に強力な制度について、その全容を詳しく見ていきましょう。
1原則と特例:即時配置可能型とは何か?
まず、この特例がなぜ画期的なのかを理解するために、原則から確認します。
1-1. 原則:「直接的・恒常的な雇用」の必要性
主任技術者・監理技術者は、所属建設業者との間に直接的・恒常的な雇用関係がなければなりません。
そのため、出向元に籍を置いたままの「在籍出向」社員は、出向先との直接雇用関係がないと見なされ、原則として現場の主任技術者等にはなれませんでした。
1-2. 特例:即時に雇用関係があると見なす制度
「即時配置可能型」とは、一定の条件を満たす企業集団内での親子会社間の出向に限り、出向社員と出向先の子会社との間に、出向したその日から「直接的かつ恒常的な雇用関係」があると見なす特例制度です。
これにより、例えば公共工事の入札で求められる「3ヶ月以上の雇用期間」といった待機期間を必要とせず、必要な時に、必要な人材を、即座に現場へ配置することが可能になります。
2適用を受けるための厳格な条件
この強力な特例は、どの企業グループでも利用できるわけではありません。
外部からの信頼性が担保された、透明性の高い企業集団であることを証明するため、非常に厳格な適用条件が定められています。
2-1. 対象となる企業集団の条件
まず、以下の要件をすべて満たす企業集団であることが必要です。
① 一の親会社とその連結子会社からなる企業集団であること。
② 親会社、および技術者を配置しようとする連結子会社が、ともに建設業者であること。
③ 親会社が、有価証券報告書提出会社または会計監査人設置会社であること。
2-2. 国土交通大臣による「企業集団確認」
上記の条件を満たしていることについて、事前に国土交通省へ申請し、建設業課長による「企業集団であることの確認書」の交付を受ける必要があります。
この確認書の有効期間は3年間です。この確認を受けて初めて、「即時配置可能型」の対象企業グループとなります。
2-3. 経営事項審査(経審)に関する留意点
この制度は、グループ内での技術者の融通を認めるものであり、経営事項審査の評価点をグループ内で不正に操作するために利用することはできません。
そのため、経審の申請においては、この特例の適用に関して別途細かなルールが定められています。
3「即時配置可能型」における雇用関係の証明方法
国土交通大臣の確認を受けた企業グループが、実際に出向社員を現場に配置する際、その雇用関係は、通常の証明書類(健康保険証など)とは異なる、特別な方法で証明する必要があります。
3-1. 3種類の証明書類
注文者(発注者)への提示や、行政庁の立ち入り検査などに備え、以下の3種類の書類を一体として保管・管理しなければなりません。
① 出向元(親会社)との雇用関係を示す書類
(例:出向元の健康保険被保険者証の写し)
② 出向の事実と内容を証明する書類
(例:親会社と子会社の間で締結された「出向協定書」や「出向契約書」)
③ 国土交通大臣による「企業集団確認書」の写し
これらの書類セットが、特例の適用を証明する唯一の証拠となります。
3-2. 書類の提示・保存義務
これらの証明書類は、発注者から求められた場合には速やかに提示する義務があります。また、工事完成後も5年間(新築住宅は10年間)の保存義務が課せられていますので、厳重な管理が必要です。
4整理
「即時配置可能型」の特例制度は、厳格な条件と複雑な手続きを要する、高度な専門知識が求められる制度です。
しかし、これを正しく活用できれば、グループ全体の技術者という貴重な経営資源を、これまで以上に戦略的かつ機動的に活用することが可能となります。
特に、重要なプロジェクトに、グループ内で最も経験豊富なエース級の技術者を、タイミングを逃さずに投入できるメリットは、計り知れません。
この制度は、単なる規制緩和ではなく、これからの建設業界をリードしていく企業グループにとって、事業の「無限の可能性」を広げるための、強力な武器となり得るのです。
5まとめ
建設業法における「即時配置可能型」の出向技術者配置制度は、企業グループの競争力を高める強力なツールですが、その適用には厳格な条件と複雑な申請手続きが伴います。
「自社のグループは、この制度の対象となるのか」「国土交通省への確認申請を、どのように進めれば良いのか」といったお悩みは、ぜひ専門家である行政書士にご相談ください。
当事務所は、建設業法務の専門家として、最新の法改正に対応した複雑な申請手続きをサポートします。
元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の戦略的な事業運営を、法務面から力強く支援いたします。
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