
「下請業者から工事完了の連絡があったけれど、いつまでに検査をすれば良いのだろう?」
「検査が終わった後、すぐに引き取らないと何か問題があるの?」
「支払いが遅れる原因にもなるって本当?」
こんな疑問を感じたことはありませんか?
ご安心ください。
その疑問は、建設業法に定められた「検査」と「引渡し」のルールを正しく理解することで解決できます。
この記事では、下請工事の完成後、元請負人が法的に義務付けられている対応と、その期間について、トラブル防止の観点から分かりやすく解説します。
建設工事において、下請負人が担当工事を無事に完成させることは、プロジェクト全体の成功に向けた大きな一歩です。
しかし、その「完成」から「引渡し」、そして「代金支払い」に至るプロセスには、建設業法によって明確なルールが定められています。
元請負人がこのルールを正しく理解し、遵守することは、下請負人との間の不要なトラブルを防ぎ、健全な信頼関係を築く上で極めて重要です。
今回は、下請負人から工事の完成通知を受けた後の、元請負人の責務に焦点を当てて詳しく見ていきましょう。
1工事完成後の基本的な流れ
まず、下請工事が完成してから、その目的物が元請負人に引き渡されるまでの基本的なフローを理解しましょう。
1-1. ステップ①:下請負人からの「完成通知」
すべてのプロセスは、下請負人が「工事が完成しました」と元請負人に通知することから始まります。この通知を受けて、元請負人の法的な義務が発生します。
1-2. ステップ②:元請負人による「検査」
元請負人は、完成通知を受けたら、その工事が契約内容通りに完成しているかを確認するための検査を実施します。
1-3. ステップ③:下請負人からの「引渡し申出」
検査に合格し、工事の完成が確認された後、下請負人は元請負人に対して「完成した工事目的物を引き取ってください」という引渡しの申出を行います。
1-4. ステップ④:元請負人による「引渡し」の受領
元請負人は、下請負人からの申出に基づき、完成した工事目的物の引渡しを受けます。この引渡しをもって、工事は一つの区切りを迎えます。
これらの各ステップにおいて、特に②と④のタイミングについては、建設業法が下請負人を不当な不利益から守るための重要なルールを定めています。
2ルール①:「検査」は通知から20日以内に!
下請負人にとって、工事が完成したにもかかわらず、元請負人がなかなか検査に来てくれなければ、次のステップに進むことができず、代金の支払いも遅れてしまいます。
このような事態を防ぐため、法律は検査のタイミングに厳格な期限を設けています。
2-1. 建設業法が定める「20日ルール」
建設業法第24条の4第1項では、元請負人は、下請負人から工事の完成通知を受けたときは、その日から起算して20日以内で、かつ、できる限り短い期間内に、その工事の完成を確認するための検査を完了しなければならない、と定められています。
「20日以内」という明確な期限と、「できる限り短い期間内」という迅速な対応を求める二段構えの規定になっている点がポイントです。
正当な理由なく検査を引き延ばすことは、この規定に違反する可能性があります。
2-2. もし検査で不合格(欠陥)が見つかったら?
検査の結果、工事の出来栄えが契約内容と異なっていたり、欠陥が見つかったりした場合は、元請負人は直ちにその修補(補修)を請求することができます。
下請負人が修補を完了し、再度、元請負人に完成通知を行った時点から、再び20日間の検査期間がスタートすることになります。
3ルール②:「引渡し」は申出があれば「直ちに」!
検査が無事に完了し、工事の完成が確認された後も、元請負人がその引渡しを先延ばしにすると、下請負人は不利益を被る可能性があります。
なぜなら、目的物の引渡しが完了するまでの間、その保管責任や、天災など不可抗力によって損害が生じた場合の危険負担は、原則として下請負人が負うことになるからです。
3-1. 建設業法が定める「即時引渡しルール」
このような下請負人のリスクを軽減するため、建設業法第24条の4第2項では、元請負人は、検査によって工事の完成を確認した後、下請負人から引渡しの申出があったときは、直ちにその工事目的物の引渡しを受けなければならない、と定めています。
ポイントは「直ちに」という言葉です。
これは、「すぐに」「間を置かずに」という意味であり、元請負人側の都合で引渡しを遅らせることは認められません。
例えば、「倉庫がいっぱいだから」「他の現場が忙しいから」といった理由は、正当な理由にはなりません。
3-2. 引渡しの重要性-危険負担の移転
引渡しが完了すると、その工事目的物の管理責任は、下請負人から元請負人に移転します。
つまり、引渡し後に台風や第三者の過失によって目的物が損傷したとしても、そのリスクは元請負人が負うことになります。
下請負人にとって、速やかに引渡しを完了させることは、このようなリスクから解放されるという意味でも非常に重要なのです。
4ルール③:全てのやり取りは「書面」が望ましい
完成通知や引渡しの申出は、法律上、口頭で行うことも否定はされていません。
しかし、後のトラブルを未然に防ぐためには、全てのやり取りを書面で行い、記録に残しておくことが賢明です。
「完成通知はいつ受け取ったか」「検査日はいつだったか」「引渡しの申出はいつあったか」といった日付が、20日ルールや即時引渡しルールの遵守を証明する上で、客観的な証拠となります。
「言った・言わない」の水掛け論を避けるためにも、日付入りの書面(メールも可)でのコミュニケーションを徹底することをお勧めします。
これらのルールを遵守しない元請負人は、建設業法に基づく監督処分(指示、営業停止など)の対象となる可能性があります。
下請負人との良好な関係を築き、自社をリスクから守るためにも、完成後の手続きについて、今一度、社内のルールを見直してみてはいかがでしょうか。
5まとめ
建設工事の完成後における「20日以内の検査」と「直ちに引渡し」は、建設業法が元請負人に課した重要な義務です。
このルールは、下請負人を不当な支払遅延やリスクから守り、公正な取引を実現するために定められています。
これらのルールを正しく理解し、遵守することは、企業のコンプライアンス体制の根幹です。
「自社の業務フローは、法令に則っているだろうか」と少しでも不安に感じたら、専門家にご相談ください。
当事務所は、建設業法務の専門家として、適切な契約・施工管理体制の構築をサポートします。
元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の事業運営におけるリスク管理をお手伝いいたします。
6お問い合わせ
行政書士藤井等事務所
(1) お問い合わせフォーム:
https://office-fujiihitoshi.com/script/mailform/toiawase/
(2) 事務所ホームページ<トップページ>:
https://office-fujiihitoshi.com/