見積期間、知らないと違反

「急な工事なので、下請業者に明日までに見積もりを出すようお願いしてしまった…」
「元請から『できるだけ早く見積もりを』と曖昧な依頼をされたけど、これって普通なの?」

こんな経験や疑問をお持ちの建設業関係者の方はいらっしゃいませんか?

ご安心ください。
その疑問は、建設業法に定められたルールを正しく理解することで解決できます。

今回は、元請負人が下請負人へ見積もりを依頼する際に設けなければならない「見積期間」について、その具体的な日数や数え方、そして違反となるケースまで、コンプライアンス遵守とトラブル防止のために不可欠な知識を具体的にご紹介します。

建設業界において、元請負人と下請負人との間の健全なパートナーシップは、工事の品質確保と円滑な進行の礎です。

その関係性の第一歩となる「見積もり」のプロセスにおいて、建設業法は下請負人を保護し、公正な取引を促進するための重要なルールを定めています。
それが「法定見積期間」の確保です。

「急いでいるから」「いつも付き合いのある業者だから」といった理由で、このルールを疎かにしてしまうと、意図せず法令違反となってしまうだけでなく、深刻なトラブルに発展する可能性もあります。

今回は、元請負人が必ず押さえておくべき、この「見積期間」に関する約束事について、詳しく解説していきます。

1元請に課せられた「見積期間を設ける義務」とは?

まず、なぜ元請負人は下請負人に対して、見積もりのための期間を設けなければならないのでしょうか。
その法的根拠と背景を理解することが重要です。

1-1. 建設業法が定める元請負人の義務

建設業法第20条第4項では、元請負人が下請契約を締結しようとする際、
「契約内容の提示から当該契約の締結までに、…一定の期間を設けなければならない」
と明確に義務付けています。

これは、下請負人が元請負人から提示された工事内容や契約条件を十分に理解し、現地の確認や資材・労務費の調査、専門工事業者への問い合わせなどを行い、適正な積算に基づいた見積書を作成するための時間を法的に保障するための規定です。

このルールは、元請負人の都合だけで一方的に短い期間で見積もりを強いることを防ぎ、下請負人が不利益を被ることを防止する、下請業者保護の観点から非常に重要な意味を持っています。

1-2. 見積期間を設けることの真の目的

法定見積期間を設けることは、単に法律で決まっているからという形式的な理由だけではありません。その真の目的は、以下のような点にあります。

⑴適正な見積もりの実現:
十分な時間があることで、下請業者は工事のリスクやコストを正確に算定でき、精度の高い見積もりが可能となります。

⑵不当なダンピングの防止:
短時間での見積もり提出を強いると、下請業者は十分な積算ができず、失注を恐れて不当に低い金額(ダンピング)で応札せざるを得ない状況に追い込まれることがあります。
法定見積期間は、このような不健全な競争を防ぐ役割も果たします。

⑶「言った・言わない」トラブルの回避:
見積もりの前提となる工事内容や条件を共有し、検討する時間が確保されることで、後の契約段階や施工段階での認識の齟齬を防ぎます。

⑷建設工事の品質確保:
適正な見積もりと、それに基づく適正な請負代金は、下請工事の品質を確保するための大前提です。
結果として、建設生産システム全体の健全化と、発注者や社会からの信頼獲得に繋がります。

2必ず守るべき法定見積期間の具体的な日数

建設業法は、工事の規模(発注予定価格)に応じて、設けるべき見積期間の最低日数を具体的に定めています。
これは、建設業法施行令第6条で規定されています。

2-1. 発注予定価格に応じた3つの区分

元請負人が設けなければならない見積期間は、以下の通りです。
① 500万円未満の工事:1日以上
② 500万円以上5,000万円未満の工事:10日以上
③ 5,000万円以上の工事:15日以上

  ※②と③の期間
  ・「やむを得ない事情があるとき」に限り、5日以内に短縮することが認められていますが、この「やむを得ない事情」とは、災害の発生による緊急工事など、極めて限定的なケースを指します。
  ・単に「工期が短いから」「早く着工したいから」といった元請負人側の都合は、これに該当しないため注意が必要です。

2-2. 期間の正しい数え方:「中〇日」の考え方

ここで非常に重要なのが、期間の数え方です。
法律上の「〇日以上」は、「中(なか)〇日以上」、つまり契約内容の提示をした日と契約を締結する日は含めずに、その間に丸一日が何日あるかで数えるのが正しい解釈です。

〇具体例で確認
例えば、元請負人が下請負人に対して、4月1日に見積もりに必要な契約内容の提示を行った場合、最短で契約を締結できる日は以下のようになります。

① 500万円未満(中1日以上):
4月1日(提示日)と契約日の間に丸1日(4月2日)が必要なので、最短の契約締結日は4月3日となります。

② 500万円以上5,000万円未満(中10日以上):
間に丸10日間が必要なので、最短の契約締結日は4月12日となります。

③ 5,000万円以上(中15日以上):
間に丸15日間が必要なので、最短の契約締結日は4月17日となります。

この期間には、土日祝日などの休日も含まれます。
しかし、下請業者が実際に見積作業を行えるのは営業日であることを考慮すれば、連休などを挟む場合は、法定期間を満たしていても、実質的に作業できる日数が非常に短くなる可能性があります。

下請業者への配慮として、法定期間に加えて、休日も考慮した十分な期間を設定することが望ましいでしょう。

3建設業法違反となる!

法定見積期間のルールを理解していても、実際のやり取りの中で意図せず違反となってしまうケースがあります。
以下のような依頼方法は、建設業法違反となる恐れがあるため、絶対に避けなければなりません。

3-1. 期限を不当に短く設定するケース

例: 「申し訳ないけど、この1,000万円の工事、明後日までに見積もりを出してくれないか?」
 →解説: 1,000万円の工事であれば、法定見積期間は中10日以上必要です。これを大幅に下回る期間での提出を要求することは、明確な法令違反となります。

3-2. 期限を曖昧にするケース

例: 「この工事の見積もり、なるべく早くお願い」「できるだけ急いでほしい」
 →解説: 具体的な期限を示さず、実質的に短い期間での提出を強いるような曖昧な依頼も、法定見積期間を設けたことにはならず、不適切な行為と見なされます。

3-3. 見積もりに必要な情報を提供しないまま期間だけを設けるケース

例: 「とりあえずこの図面だけで、5日後までに見積もりをください。詳細は追って連絡します」
 →解説: たとえ形式的に期間を設けても、下請業者が適正な積算を行うために必要な情報(詳細な仕様、数量、契約条件など)が提供されていなければ、その期間は実質的に意味を成しません。これもまた、建設業法の趣旨に反する行為です。

重要なのは、元請負人が下請負人に対して、これらの不適切な依頼を行ってはならない、ということです。

一方で、下請負人が自らの判断で、法定期間よりも早く見積書を提出すること自体は、何ら法的に問題はありません。
あくまで、元請負人が短い期間を強要することが禁じられています。

4整理

建設業法が定める法定見積期間は、下請負人を守り、公正な取引環境を確保するための重要なルールです。
このルールを正しく理解し、遵守することは、元請負人にとっての法的義務であると同時に、企業のコンプライアンス意識の高さを示すことにも繋がります。

目先の工期や都合を優先し、下請負人に無理な要求をすることは、短期的には効率的に見えるかもしれませんが、長期的には協力会社との信頼関係を損ない、工事の品質低下やトラブルを招く原因となりかねません。

法定期間の遵守はもちろんのこと、工事の規模や内容、複雑さを考慮し、休日なども含めた「十分な見積期間」を設けるという配慮こそが、下請負人との良好なパートナーシップを築き、共に事業を成功に導くための鍵となるのです。

5まとめ

建設業法における「法定見積期間」のルールは、下請業者を保護し、公正な取引を実現するための重要な規定です。
このルールを知らずに、あるいは軽視して、不適切な見積依頼を行ってしまうと、意図せず法令違反となるリスクがあります。

元請・下請間のトラブルを未然に防ぎ、健全なパートナーシップを築くためにも、正しい法律知識に基づいたコンプライアンス遵守の体制構築が不可欠です。

当事務所は、建設業許可や関連法令に関する専門家として、企業のコンプライアンス体制構築のサポートも行っております。

元岩手県職員としての経験と、他士業との連携による多角的な視点から、貴社の事業運営におけるリスク管理をお手伝いいたします。契約関係や法令遵守に関するご相談も、お気軽にお寄せください。

6お問い合わせ

行政書士藤井等事務所
(1) お問い合わせフォーム:
https://office-fujiihitoshi.com/script/mailform/toiawase/
(2) 事務所ホームページ<トップページ>:
https://office-fujiihitoshi.com/