「著しく短い工期」の禁止

「元請から、とても間に合いそうにない厳しい工期を提示されて困っている…」
「下請に、なんとかこの短い期間で工事を終わらせてほしいとお願いしてしまった…」
「『著しく短い工期』って、そもそも何が基準なの?」
こんな疑問や不安を感じていませんか?

ご安心ください。
その悩みは、建設業法に定められた「工期」に関する新しいルールを正しく理解することで、解決への道筋が見えてきます。

この記事では、建設業界の働き方改革の柱である「著しく短い工期の禁止」について、その背景から、違反となる判断基準、そして適正な工期を設定するためのポイントまで、分かりやすく解説します。

建設業界における長年の課題であった、長時間労働や休日の確保の難しさ。
この状況を改善し、建設業の担い手を確保・育成していくため、近年、建設業法は大きな変革を遂げています。

その中でも、すべての建設業者にとって極めて重要なのが、2020年(令和2年)10月の法改正で導入された「著しく短い工期の禁止」というルールです。

これは、発注者や元請負人が、その優越的な地位を利用して、不当に短い工期で契約を強いることを禁じるものです。
今回は、この新しいルールの核心に迫り、企業が遵守すべきポイントと、その背景にある考え方について詳しく見ていきましょう。

1「著しく短い工期」とは?

まず、「著しく短い工期」が何を指し、なぜ法律で禁止されるに至ったのか、その定義と背景を理解することが重要です。

1-1. ルールの定義

「著しく短い工期」とは、その建設工事を施工するために、通常必要と認められる期間に比べて、著しく短い期間の工期を指します。
建設業法第19条の6では、注文者(元請負人を含む)は、この「著しく短い工期」で請負契約を締結してはならない、と明確に定めています。

1-2. 禁止の背景にある「働き方改革」

このルールが導入された大きな背景には、建設業界全体の「働き方改革」を推進するという強い意志があります。
不当に短い工期は、下請負人や現場の作業員に過度な負担を強いることになります。

⑴ 長時間労働の常態化:
無理な工期に間に合わせるため、休日返上や深夜までの作業が常態化します。
⑵ 安全管理の不徹底:
焦りから安全確認がおろそかになり、労働災害の発生リスクが高まります。
⑶ 工事品質の低下:
丁寧な施工ができなくなり、手抜き工事や施工不良の原因となります。

これらの弊害を防ぎ、建設業を若者や女性にとっても魅力的な産業とするためには、適正な工期を確保することが不可欠である、という社会的な要請がこのルールの根底にあります。

2適正な工期設定の道しるべ

では、「通常必要と認められる期間」とは、どのように判断されるのでしょうか。
その道しるべとなるのが、国土交通省の中央建設業審議会が作成し、実施を勧告している「工期に関する基準」です。

2-1. すべての建設工事が対象

この基準は、公共工事だけでなく、民間工事を含むすべての建設工事において、発注者が工期を設定する際に考慮すべき事項をまとめたものです。
当初契約だけでなく、追加・変更契約における工期設定にも適用されます。

2-2. 基準が求める考慮事項

「工期に関する基準」では、適正な工期を設定するために、以下の要素を総合的に考慮するよう求めています。

① 建設工事の規模、内容、特性
② 現場の自然条件(天候、地理的条件など)
③ 施工方法や建設資材の準備に必要な期間
④ 休日、祝日、天候による作業不能日(不稼働日)
⑤ 関係機関との協議や手続きに必要な期間

これらの要素を無視して、単に見積金額が低いという理由だけで短い工期を提示する業者を選んだり、一方的に短い工期を押し付けたりすることは、この基準の趣旨に反する行為となります。

3違反した場合のリスクと判断基準

「著しく短い工期」での契約締結は、発注者・元請負人にとって大きなリスクを伴います。

3-1. 違反した場合の措置

許可行政庁は、「著しく短い工期」を設定したと認められる注文者に対し、必要な勧告を行うことができます。

さらに、その勧告に従わない場合には、その事実を公表することができます。企業名が公表されれば、社会的な信用は大きく損なわれるでしょう。

また、その注文者が建設業者(元請負人)である場合には、より重い指示処分や営業停止処分の対象となる可能性もあります。

3-2. 違反かどうかの判断基準

許可行政庁が「著しく短い工期」に該当するかどうかを判断する際には、主に以下の点が考慮されます。
① 休日・不稼働日の考慮:
週休2日や祝日、降雨・降雪による作業不能日などが、工期の中に適切に見込まれているか。
② 過去の同種工事との比較:
過去に行われた類似の工事実績と比較して、工期が不自然に短くないか。
③ 見積内容の精査:
下請負人などが提出した工期に関する見積もりの内容が、合理的な根拠に基づいているか。

3-3. 受注者側にも広がる規制

なお、今後の法改正(令和7年12月予定)では、短い工期を提示する発注者側だけでなく、それを不当に受け入れてしまう受注者(建設業者)側も、禁止の対象となる予定です。

業界全体で適正な工期を確保しようという、国の強い姿勢がうかがえます。

3-4. 相談窓口の設置

国土交通省では、建設業法に違反する疑いのある行為について、情報を受け付けるための「駆け込みホットライン」を設置しています。
これは、立場の弱い下請負人が、不当な要求に対して声を上げやすくするための重要な仕組みです。

4全体の整理

「著しく短い工期の禁止」は、単に労働時間を規制するだけのルールではありません。
それは、建設工事の品質を確保し、現場の安全を守り、ひいては建設業界の未来を支える担い手を育てるための、極めて重要な規定です。

元請負人としては、下請負人が適正な見積もりと施工を行うために十分な期間を確保する責任があります。

また、下請負人としても、無理な工期での契約を安易に受け入れることは、自社の経営を疲弊させ、従業員に過度な負担を強いることに繋がります。

当事者双方がこのルールの趣旨を深く理解し、誠実な協議を通じて適正な工期を設定することが、健全なパートナーシップを築き、共に事業を成功させるための礎となるのです。

5まとめ

建設業法における「著しく短い工期の禁止」は、企業のコンプライアンス、そして建設業界全体の未来に関わる重要なルールです。

適正な工期設定は、工事の品質と安全を確保し、下請負人との信頼関係を築くための第一歩と言えます。

「この工期設定は、法的に問題ないだろうか」「元請との工期に関する協議で悩んでいる」など、契約や法令遵守に関するお悩みは、専門家である行政書士にご相談ください。

当事務所は、元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の実情に合わせたコンプライアンス体制の構築や、適正な契約関係のサポートをいたします。

6お問い合わせ

行政書士藤井等事務所
(1) お問い合わせフォーム:
https://office-fujiihitoshi.com/script/mailform/toiawase/
(2) 事務所ホームページ<トップページ>:
https://office-fujiihitoshi.com/