単価契約の落とし穴

「単価契約だから、一件あたりの金額は小さいし、建設業許可は不要だよね?」
「常用単価で職人さんを現場に入れてるけど、これって偽装請負にならないか心配…」
「単価契約の正しいルールがよく分からない」
こんな疑問や不安を感じていませんか?

ご安心ください。
そのお悩みは、「単価契約」に関する建設業法のルールを正しく理解することで解決できます。

この記事では、便利な一方で大きな落とし穴もある単価契約について、建設業許可との関係や、偽装請負と見なされないためのポイントを分かりやすく解説します。

建設業界において「単価契約」は、修繕工事やメンテナンス、災害復旧工事など、事前に作業量や資材の数量を正確に確定させることが難しい場合に用いられる、非常に便利で合理的な契約方法の一つです。

しかし、その手軽さゆえに、建設業法上のルールを正しく理解せずに運用してしまうと、「無許可営業」や「偽装請負」といった深刻な法令違反に繋がる危険性をはらんでいます。
今回は、この「単価契約」を適法かつ有効に活用するために、すべての建設業者が知っておくべき重要なポイントについて、詳しく見ていきましょう。

1「単価契約」とは何か?

まず、単価契約の基本的な定義と、建設業法上の位置づけを理解することが重要です。

1-1. 単価契約の定義

単価契約とは、工事全体の総額を最初に決める「総価契約」とは異なり、あらかじめ「作業や資材の単位あたりの価格(単価)」だけを定めておき、最終的な支払金額は、契約期間内に供給された「実績数量」に基づいて算出する契約方法を指します。

例えば、「1㎡あたりの塗装費用〇円」「職人一人一日あたりの作業単価〇円(常用単価)」といった取り決めがこれに該当します。

1-2. 建設業法上の取り扱い

重要なのは、たとえ単価契約であっても、その目的が「建設工事の完成」である限り、それは建設業法が適用される「建設工事の請負契約」であるという点です。

したがって、後述する建設業許可の要否判断や、契約書面の締結義務など、建設業法の基本的なルールは、総価契約と何ら変わることなく適用されます。

2単価契約と建設業許可

単価契約において、最も注意が必要で、かつ誤解が多いのが、建設業許可が必要となる「500万円」の判断基準です。

2-1. 請負金額は「契約全体の合計額」で判断される

建設業法では、許可を必要としない「軽微な建設工事」を、原則として「工事1件の請負代金の額が500万円に満たない工事」と定めています。

単価契約の場合、この「工事1件の請負代金の額」は、個々の作業指示や納品ごとの金額ではなく、「契約期間内における作業全体の請負代金の合計額」で判断されます。

建設業法施行令第1条の2第2項では、「契約を二以上の契約に分割して請け負うときは、各契約の請負代金の額の合計額とする」と明確に規定されており、これは単価契約にも準用されます。

2-2. 違反となりうる具体例

例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。
⑴ 契約内容:
1ヶ月間の補修工事について、作業A(単価100万円)、作業B(単価300万円)、作業C(単価300万円)の単価契約を締結した。

⑵ 誤った考え方:
個々の作業はすべて500万円未満だから、建設業許可は不要だろう。

⑶ 正しい法律上の判断:
この契約における請負代金の総額は、100万円+300万円+300万円=700万円となります。
これは「軽微な建設工事」の範囲を超えるため、この工事を請け負うには、対応する業種の建設業許可が必要です。

このように、単価契約であることを理由に、実質的に500万円以上の工事を無許可で請け負うことは、「許可逃れ」の脱法行為と見なされ、厳しい罰則の対象となります。

3単価契約と偽装請負

単価契約、特に職人の常用単価などで契約する場合に、もう一つ注意しなければならないのが「偽装請負」の問題です。

3-1. 「仕事の完成」か「労働力の提供」か

単価契約であっても、それが「建設工事の完成」を目的とする請負契約である限り、偽装請負にはなりません。

しかし、契約の名称が単価契約や業務委託となっていても、その実態が単に「労働力」を提供することだけを目的としている場合、それは労働者派遣や職業紹介と見なされ、偽装請負として労働者派遣法違反などに問われる可能性があります。

3-2. 判断の分かれ目

適法な請負契約か、偽装請負かを判断する最大のポイントは、元請負人(発注者)と、下請負人の労働者との間に「指揮命令関係」*があるかどうかです。

⑴ 偽装請負と判断される例:
元請負人が、下請負人の作業員に対して、直接、始業・終業時刻の指示、作業手順の具体的な指示、残業命令などを行っている場合。

⑵ 適法な請負と判断される例:
元請負人は、下請負人(またはその現場代理人)に対して、仕事の完成目標を指示するのみで、下請負人が自らの裁量と責任で、自社の労働者に具体的な指示や勤怠管理を行っている場合。

常用単価での契約は、労働力の提供と見なされやすいため、特に指揮命令系統を明確にし、下請負人の独立性を尊重することが重要です。

4全体の整理

単価契約は、柔軟で便利な契約形態ですが、その一方で、建設業許可の要否判断や、偽装請負といったコンプライアンス上のリスクを内包しています。

これらのリスクを回避するためには、単価契約の特性と、それに適用される建設業法のルールを正しく理解することが不可欠です。

契約を締結する際には、たとえ単価契約であっても、建設業法第19条が定める事項を網羅した契約書を必ず作成し、特に「請負代金の総額」の考え方や、指揮命令系統について、当事者間で明確な合意を形成しておくことが、健全な事業運営とトラブル防止の鍵となります。

5まとめ

建設業における「単価契約」は、その手軽さから多用される一方、建設業許可や偽装請負といった、重大な法令違反に繋がりやすい落とし穴も存在します。
自社の契約方法が、建設業法のルールに則っているか、今一度ご確認いただくことが重要です。

「この単価契約は、法的に問題ないだろうか」「自社の働き方が偽装請負と見なされないか心配だ」など、契約やコンプライアンスに関するお悩みは、専門家である行政書士にご相談ください。

当事務所は、元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の実情に合わせた契約プロセスの見直しや、法務リスクの診断をサポートいたします。

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