500万円未満への契約分割は違反?

「目の前に500万円以上の工事案件があるが、自社にはまだ建設業許可がない…」
「契約書を2つに分けて、それぞれを500万円未満に見せかければ問題ないのでは?」
こんな風に考えたことはありませんか?

ご安心ください。
その疑問とリスクは、建設業法のルールを正しく理解することで明確になります。

この記事では、建設業許可を逃れるための請負契約の分割がなぜ法令違反となるのか、その根拠と、無許可営業となった場合の重い罰則、そして適法に事業を拡大していくための正しい道筋について、分かりやすく解説します。

建設業界において、事業を拡大し、より大きな規模の工事に挑戦していくことは、多くの経営者様が描く目標の一つでしょう。
その過程で大きな節目となるのが、請負金額500万円以上の工事を受注するために必要となる「建設業許可」の取得です。

しかし、許可を取得するには一定の要件をクリアする必要があり、その準備が整わない状況で魅力的な案件が舞い込んでくることもあります。
そんな時、「許可がないから、今回の500万円以上の工事を、250万円ずつの2つの契約に分割してもらえば請け負えるのではないか?」という考えが頭をよぎるかもしれません。

しかし、その安易な判断は、企業の未来を揺るがしかねない深刻なリスクを伴う「脱法行為」です。
今回は、この契約分割の問題点について、法律の規定を基に詳しく見ていきましょう。

1大原則

まず、全ての基本となるルールを確認します。

1-1. 建設業法が定める許可制度

建設業法第3条では、建設業を営む者は、「軽微な建設工事」のみを請け負う場合を除き、その工事の種類(業種)に応じた建設業許可を受けなければならない、と定められています。

ここでいう「軽微な建設工事」とは、原則として、工事1件の請負代金の額が消費税込みで500万円に満たない工事のことを指します。
(※建築一式工事の場合は1,500万円未満、または延べ面積150㎡未満の木造住宅工事という例外があります。)

つまり、請負金額が500万円(建築一式工事は1,500万円)に達した瞬間から、その工事を請け負うためには、対応する業種の建設業許可が絶対的に必要になるのです。

1-2. 業種ごとの許可

建設業許可は、土木一式、建築一式をはじめ、とび・土工・コンクリート、電気、管など、29の専門業種に分かれています。

例えば、800万円の管工事を請け負うためには、「管工事業」の建設業許可が必要です。

他の業種の許可を持っていても、管工事の許可がなければ、この工事を請け負うことはできません。

2契約分割の禁止

「では、許可がないから500万円以上の工事を複数の契約に分けて、1件あたりを500万円未満に見せかければ良い」という考えは、残念ながら通用しません。
法律は、そのような脱法行為を明確に禁止しています。

2-1. 建設業法施行令による明確な規定

建設業法施行令第1条の2第2項には、次のように定められています。
「注文者が材料を提供する場合においては、その市場価格又は市場価格及び運送費を当該請負契約の請負代金の額に加えたものを第一項の請負代金の額とする。
契約を二以上の契約に分割して請け負うときは、各契約の請負代金の額の合計額とする。」

重要なのは後半部分です。
「二以上の契約に分割して請け負うときは、各契約の請負代金の額の合計額とする」と、はっきりと規定されています。

これは、実質的に一体と見なされるべき一つの工事を、単に許可を逃れる目的で形式的に分割したとしても、それらの契約金額を合算した総額で判断するということを意味します。

例えば、800万円の工事を、契約書A(400万円)と契約書B(400万円)に分けたとしても、合計額である800万円の工事と見なされ、許可が必要になるのです。

2-2. 「正当な理由」がある分割とは?

ただし、同条文には「正当な理由に基いて」分割する場合は例外とする旨も記されています。

しかし、この「正当な理由」が認められるケースは極めて限定的です。例えば、
・異なる工区で、それぞれ別の下請業者に発注する場合
・全く別の時期に、異なる目的で発注される工事である場合
など、客観的に見て工事が一体ではないと明確に判断できる場合に限られます。

単に「建設業許可がないから」という理由は、決して「正当な理由」には当たりません。

3無許可営業のリスクと正しい対応

もし、契約分割などにより、実質的に500万円以上の工事を無許可で請け負ってしまった場合、それは「無許可営業」として建設業法違反となり、非常に重い罰則の対象となります。

3-1. 無許可営業に対する厳しい罰則

建設業法第47条では、無許可営業を行った者に対して「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」を科すことを定めています。

さらに、法人の場合、両罰規定(建設業法第53条)により、実際に違反行為を行った従業員などが罰せられるだけでなく、法人に対しても「1億円以下の罰金」という、極めて重い罰則が科される可能性があります。

「バレなければ大丈夫」という安易な考えは、会社の存続を揺るがしかねない、あまりにもハイリスクな選択です。

3-2. 許可がない業種の工事依頼への正しい対応

では、発注者から自社が許可を持っていない業種の500万円以上の工事を依頼された場合、どう対応すべきでしょうか。答えはシンプルです。

① きっぱりと断る
コンプライアンスを遵守する誠実な企業として、受注できないことを明確に伝える必要があります。
② 許可を持つ他の建設業者を紹介する
自社で対応できない代わりに、信頼できる同業他社を紹介することも、発注者との良好な関係を維持する上での一つの方法です。

安易に無許可で受注することは、発注者にも迷惑をかける可能性があり、自社の信用を大きく損なう行為であることを肝に銘じるべきです。

4全体の整理

目の前の大きな工事案件は、建設業者にとって確かに魅力的です。

しかし、建設業許可がないからといって、契約を分割するなどの脱法行為に手を染めることは、あまりにも大きなリスクを伴います。
それは、厳しい罰則だけでなく、企業の社会的信用を根本から失う行為です。

事業を健全に成長させ、将来的に大きなチャンスを掴むためには、遠回りに見えても、法令を遵守し、必要な建設業許可を正々堂々と取得することが唯一の正しい道です。
契約分割という安易な「抜け道」は、実は企業の未来を閉ざす「落とし穴」なのです。

5まとめ

建設業法が定める500万円以上の工事における許可制度と、契約分割の禁止ルールは、建設業界の公正な競争環境と、工事の品質・安全を守るための重要な規定です。
安易な判断による法令違反は、厳しい罰則に繋がりかねません。

「500万円以上の工事を受注したいが、まだ許可がない」「自社のこのケースは契約分割に当たらないか不安だ」など、建設業許可に関するお悩みは、専門家である行政書士にご相談ください。

当事務所は、建設業許可申請の専門家として、適法な事業拡大に向けた最適な道筋をご提案します。

元岩手県職員としての経験と、他士業との連携を活かし、貴社のコンプライアンス遵守と成長を力強くサポートいたします。

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