【おそれ情報】とは?

「最近よく聞く『おそれ情報』って、一体何のことだろう?」
「資材高騰や人手不足のリスクを、契約前にどう伝えればいいのか…」
「改正建設業法で、私たちの契約実務はどう変わるの?」

こんな疑問や不安を感じていませんか?

ご安心ください。
その悩みは、2024年12月から施行される改正建設業法の新ルールを正しく理解することで解決できます。

この記事では、契約後のトラブルを未然に防ぐための重要な仕組み「おそれ情報の通知」について、その目的から具体的な通知方法、そして万が一リスクが現実となった場合の対応まで、分かりやすく解説します。
近年、建設業界は資材価格の急激な高騰や深刻な人手不足といった、予測が難しいリスクに常に晒されています。

このような状況下で、従来の契約条件のままでは、受注者、特に下請負人が一方的に不利益を被ってしまうケースが後を絶ちませんでした。
こうした背景を踏まえ、建設業者の健全な経営環境を確保し、公正な取引関係を促進するために、建設業法が改正されました。

そして、その大きな柱の一つが、2024年(令和6年)12月から施行された「おそれ情報の通知」制度です。
今回は、この新しいルールについて、その目的から具体的な実践方法までを詳しく見ていきましょう。

1「おそれ情報」とは何か?

まず、「おそれ情報」とは具体的にどのような情報を指すのか、その定義と目的を正確に理解することが重要です。

1-1. 新設された「おそれ情報の通知」制度の目的

この制度の最大の目的は、契約を締結する前に、将来的に工期や請負代金の額に影響を及ぼす可能性のあるリスク(=おそれ)について、受注者から注文者へ事前に情報提供することです。

これにより、注文者は「もしかしたら、将来的に工期が延びるかもしれない」「追加の費用が発生するかもしれない」といったリスクの予見可能性を持つことができます。
その結果、万が一リスクが現実のものとなった場合に、契約内容の変更協議がスムーズに進み、一方的な負担の押し付けといったトラブルを未然に防ぐことが期待されます。

これは、元請・下請間のコミュニケーションを円滑にし、より対等で公正なパートナーシップを築くための重要な仕組みです。

1-2. 「おそれ情報」の対象となる事象

「おそれ情報」として通知すべき対象は、「工期や請負代金の額に影響を及ぼすおそれのある事象」で、かつ「その発生が天災や人為的な事象に起因し、元請負人と下請負人の両方の責任ではないもの」とされています。

国土交通省の資料では、具体的に以下のような例が挙げられています。

① 主要な資材の供給不足、納期の遅延、価格の高騰
例:半導体不足による給湯器や空調設備の納期遅延、ウクライナ情勢などに起因する鋼材や木材価格の急激な上昇など。

② 特定の建設工事における労務(労働者)供給の不足、労務単価の高騰
例:大規模な再開発事業や半導体工場、データセンターの建設が集中する地域において、特定の職種(型枠大工、鉄筋工など)の職人が不足し、人件費が上昇するリスク。

これらの情報は、個別の企業の努力だけではコントロールが難しい、外部環境の変化に起因するリスクが中心となります。

2「おそれ情報」の具体的な通知方法とポイント

では、実際に「おそれ情報」を通知する際には、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
国土交通省の「改正建設業法について」の資料などを参考に、実務上のポイントを整理します。

2-1. 通知の判断と内容

⑴通知の判断は受注者に委ねられる:
おそれ情報を通知するかどうか、また、どのような情報を通知するかは、受注者が工事の内容や見積もった工期などを考慮し、自ら判断することが基本です。

⑵「主要な資材」の考え方:
何が「主要な資材」に当たるかは、工事全体に占める価格の割合だけでなく、たとえ少量でも、それがなければ工事が進まないような重要な資材も含まれると解釈されます。

⑶根拠資料の提示:
通知の際には、受注者が把握している範囲で構わないので、そのリスクの根拠となる公表資料(例:経済調査会の資材価格調査、業界団体のレポート、公的な統計データなど)を示すことが望ましいとされています。
これにより、通知の客観性と説得力が高まります。

2-2. 通知の形式とタイミング

⑴保存可能な方法で通知:
「言った・言わない」のトラブルを避けるため、通知は必ず書面または電子メールなど、後から記録を確認できる方法で行う必要があります。

⑵契約締結前の適切な時期に:
通知は、注文者が見積書の内容を検討する上で十分に考慮できる、契約締結前の適切なタイミングで行うことが求められます。

2-3. 未発生の天災など、予見不可能なリスクについて

台風や地震といった、契約時点では発生が予見できない突発的な天災については、おそれ情報として事前に通知する義務まではないとされています。
これらは、従来通り、発生した時点で不可抗力として協議することになります。

3リスクが現実となった場合の協議プロセス

おそれ情報として通知したリスクが、実際に発生してしまった場合はどうなるのでしょうか。
また、通知していなかった場合はどうなるのでしょうか。

3-1. 受注者からの協議の申出

資材価格の高騰などが現実のものとなり、当初の請負代金では工事を続行することが著しく不適当となった場合、受注者は注文者に対して、請負代金額の変更などを求める協議を申し出ることができます。

重要なのは、この協議の申出は、事前におそれ情報を通知していなかった場合でも可能であるという点です。
おそれ情報の通知は、あくまで円滑な協議のための前提作りであり、協議申出権そのものを左右するものではありません。

3-2. 注文者に課せられる「誠実な協議義務」

受注者から協議の申し出があった場合、注文者(元請負人)は、「誠実に協議に応じなければならない」と建設業法で定められています(建設業法第19条の4)。

この「誠実協議義務」に違反する行為は、建設業法違反として監督処分の対象となる可能性があります。

3-3. 建設業法違反となる注文者のNG行為

「建設業法令遵守ガイドライン」では、誠実協議義務違反となりうる具体的な行為として、以下のような例を挙げています。

① 協議そのものの拒否:
「うちは契約後の金額変更には一切応じない」などと述べ、正当な理由なく協議のテーブルに着くこと自体を拒む行為。

② 協議の引き延ばし:
申し出を受けたにもかかわらず、「今忙しいから」などと言って、合理的な期間を超えて協議の開始を遅らせる行為。

③ 一方的な協議の打ち切り:
協議の場で、下請負人の主張や提示された根拠資料に真摯に耳を傾けることなく、一方的に自社の主張だけを伝えて協議を終了させてしまう行為。

元請負人は、これらの行為が法令違反に該当するリスクを十分に認識し、下請負人からの協議の申し出に対して、真摯かつ建設的な姿勢で臨む必要があります。

要約

2024年12月から施行される改正建設業法の「おそれ情報の通知」制度は、予測困難な時代において、建設業者、特に下請負人を守り、元請・下請間の公正な取引関係を促進するための重要なルールです。

このルールを正しく理解し、契約前の段階からリスク情報を共有し、オープンにコミュニケーションをとることは、単にコンプライアンスを遵守するというだけでなく、無用なトラブルを回避し、強固な信頼関係に基づくパートナーシップを築くことにも繋がります。

元請負人としては、この制度の趣旨を理解し、下請負人からの情報提供や協議の申し出に誠実に対応する姿勢が求められます。

一方、下請負人としては、自らを守るためのツールとして、この制度を積極的に活用していくことが期待されます。

この新しいルールを、双方が共に成長し、建設業界全体が健全に発展していくための好機と捉え、前向きに取り組んでいきましょう。

5まとめ

2024年12月施行の改正建設業法、特に「おそれ情報の通知」は、資材高騰などのリスクから受注者を守り、公正な契約変更を促すための重要な新ルールです。
この制度を正しく理解し、活用することが、今後の安定した事業運営の鍵となります。

しかし、どのような情報が「おそれ情報」に該当するのか、どのように通知すれば良いのか、そして万が一の際の協議の進め方など、実務上の判断に迷う場面も多いことでしょう。

当事務所は、建設業許可や関連法令に精通し、最新の法改正にも迅速に対応しております。
元岩手県職員としての経験と、他士業との連携を活かし、貴社のコンプライアンス体制構築から、契約書の見直し、トラブル防止策まで、多角的にサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。

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