
「現場で急な仕様変更を口頭で指示してしまった…」
「追加工事の代金をめぐって、元請と話が食い違っている」
「そもそも、追加・変更契約って、どのタイミングで、どんな内容で結べばいいの?」
こんな疑問やトラブルの種を抱えていませんか?
ご安心ください。
そのお悩みは、建設業法に定められた追加・変更契約のルールを正しく理解することで解決できます。
この記事では、建設工事の途中で発生する追加・変更工事について、なぜ書面での契約が絶対に必要なのか、その具体的な締結方法と、内容が未確定な場合の対応まで、分かりやすく解説します。
建設工事の現場では、予期せぬ事態や発注者の要望により、当初の計画にはなかった追加工事や仕様の変更が発生することは日常茶飯事です。
しかし、この「追加・変更」の際の契約手続きを曖昧にしてしまうことが、後に深刻な金銭トラブルや工期遅延、信頼関係の悪化を招く最大の原因の一つとなっています。
「急いでいるから」「いつもの取引先だから」といった理由で口頭での指示に頼ってしまうと、建設業法違反に問われるリスクさえあります。今回は、すべての建設業者が知っておくべき、追加・変更工事における契約のルールについて、その重要性と具体的な進め方を詳しく見ていきましょう。
1大原則
追加・変更契約のルールを理解する前に、まずは建設業法における請負契約の絶対的な基本原則に立ち返る必要があります。
1-1. 建設業法第19条が定める「書面契約義務」
建設業法第19条は、建設工事の請負契約を締結する際、法定の事項を記載した書面を作成し、当事者がそれぞれ「署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない」と定めています。
これは、契約内容を明確にし、当事者間の紛争を未然に防ぐための極めて重要な法的義務です。
1-2. 契約締結のタイミングは「工事着工前」
さらに、国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン」では、この書面契約は、災害時など真にやむを得ない場合を除き、「工事の着工前に行わなければならない」と明確に指導しています。
工事が始まってから契約内容を詰めるのではなく、全ての条件に双方が合意した上で着工するというのが、建設業法の基本的な考え方です。
2追加・変更契約も「書面」が絶対条件
この基本原則は、当然ながら、工事の途中で発生する追加・変更契約にも適用されます。
2-1. 追加・変更契約における書面締結の義務
建設業法第19条第2項では、「請負契約の変更をする場合においては、その変更の内容を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない」と規定しています。
つまり、たとえ当初の請負契約が完璧な書面で交わされていたとしても、その後の追加・変更に関する合意が口頭やメモ書きレベルで済まされてしまうと、当初契約の明確性や正確性が損なわれ、建設業法違反となるのです。
2-2. なぜ追加・変更契約も「着工前」なのか
追加・変更工事についても、原則として「その追加・変更工事の着工前に」書面で契約を締結する必要があります。
これは、特に下請負人の保護という観点から重要です。
例えば、元請負人が口頭で「ついでにこの壁も塗っておいて」と指示し、下請負人が作業を終えた後で、「そんな指示はしていない」「その金額は高すぎる」といったトラブルになるケースは後を絶ちません。
追加・変更契約を書面で、かつ着工前に締結することは、作業内容、金額、工期などを事前に確定させ、下請負人が不利益を被ることを防ぐための重要なルールなのです。
2-3. 当初契約で「変更のルール」を定めておく重要性
円滑な追加・変更契約のためには、そもそも当初の請負契約の段階で、将来の変更に備えておくことが賢明です。
建設業法第19条第1項第5号では、契約書に「当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め」を記載するよう求めています。
この条項を当初契約に具体的かつ公平に定めておくことで、いざ変更が必要となった際に、双方が冷静かつ円滑に協議を進めるための土台となります。
3追加工事の内容が「未確定」な場合の正しい対応
現場では、「追加工事の必要性は分かっているが、その具体的な数量や仕様が着工前に確定できない」というケースもしばしば発生します。
このような場合でも、契約書の交付を省略することは許されません。
3-1. 着工前に「最低限合意すべき事項」
国土交通省のガイドラインでは、追加工事の内容がすぐに確定できない場合であっても、元請負人は、その追加工事の着工前に、少なくとも以下の事項について下請負人と協議し、書面(覚書など)で合意しておくべきであると示されています。
① 追加工事として予定される具体的な作業内容
(例:「〇〇部分における配管ルートの変更に伴う追加掘削作業」など)
② 当該作業が当初契約の対象外であり、後日、契約変更の対象となることの確認、および契約変更を行うおおよその時期
(例:「本作業は別途契約変更の対象とし、数量確定後、〇月〇日までに変更契約を締結する」など)
③ 概算額や、単価等の金額の算定根拠
(例:「1㎥あたりの掘削単価は〇〇円とする」など、金額算定の基準となる単価)
3-2. 内容確定後の「遅滞なき」変更契約
上記のような事前合意を書面で交わした場合であっても、それはあくまで暫定的な措置です。
その後、追加工事の全体数量や詳細な仕様など、契約内容が確定した時点において、「遅滞なく」、改めて正式な追加・変更契約書を作成し、相互に交付しなければなりません。
「後でまとめて精算するから」といった理由で、最終的な書面の作成・交付を怠ることは、建設業法違反となります。
4全体の整理
建設工事における追加・変更は、いわばつきものです。
しかし、その手続きを曖昧にすることが、多くのトラブルの温床となっています。
建設業法が求める「書面による契約締結」の原則は、当初契約だけでなく、全ての追加・変更契約にも等しく適用されます。
口頭での安易な指示や、書面の作成を後回しにする慣行は、企業のコンプライアンス意識の欠如と見なされ、信用を失う原因ともなりかねません。
「すべての合意を書面に残す」。この文化を社内、そして取引先との間で徹底することが、企業を無用なリスクから守り、健全な事業運営を続けるための最も確実な方法です。
5まとめ
建設工事における追加・変更契約の書面化は、建設業法で定められた法的義務であり、元請・下請双方を紛争から守るための重要なルールです。口頭での指示や曖見な合意は、後に深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。
「自社の契約書の運用は適法だろうか」「トラブル防止のために、契約書の内容を見直したい」など、契約に関するお悩みは、法律の専門家にご相談ください。
当事務所は、建設業許可や関連法令に精通し、企業のコンプライアンス遵守をサポートいたします。
元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の実情に合わせた契約書作成支援やリーガルチェックを行います。まずはお気軽にお問い合わせください。
6お問い合わせ
行政書士藤井等事務所
(1) お問い合わせフォーム:
https://office-fujiihitoshi.com/script/mailform/toiawase/
(2) 事務所ホームページ<トップページ>:
https://office-fujiihitoshi.com/