請負契約は契約書が必須

「長年の付き合いだから、いつも工事の契約は口約束で済ませている」
「注文書と請書だけで契約しているけど、法律的に大丈夫だろうか…」
「契約書に何を記載すれば良いのか、正確なルールが分からない」
こんな疑問や不安を抱えていませんか?

ご安心ください。
そのお悩みは、建設業法に定められた契約のルールを正しく理解することで解決できます。

この記事では、建設工事の請負契約において、なぜ書面での契約が絶対に必要なのか、その具体的な方法と記載すべき重要事項について、分かりやすく解説します。

建設業界において、元請負人と下請負人、あるいは発注者と元請負人との間で交わされる「請負契約」は、すべての業務の土台となる極めて重要な約束事です。

しかし、日々の業務の忙しさや、長年の取引関係からくる慣習により、口約束や曖昧な内容のままで工事が進められてしまうケースも少なくありません。

このような不適切な契約は、「言った・言わない」といった深刻な紛争の火種となり、企業の経営に大きな損害を与える可能性があります。
建設業法は、こうした事態を防ぎ、当事者双方の権利と義務を明確にするため、請負契約の締結方法について厳格なルールを定めています。

今回は、その核心である「書面契約の義務」について、詳しく見ていきましょう。

1なぜ建設工事の請負契約は「書面」でなければならないのか?

建設業法第19条第1項では、
「建設工事の請負契約の当事者は、…(中略)…書面を交付して契約を締結しなければならない」
と定められています。

これは努力義務ではなく、明確な法的義務です。なぜ法律は、そこまでして書面による契約を義務付けているのでしょうか。

その目的は大きく分けて以下の3つです。

1-1. 契約内容の明確化

工事名称、場所、工期、請負代金の額、支払い方法、責任の範囲など、契約内容は多岐にわたります。

これらを口頭だけで正確に、かつ相互に誤解なく確認することは非常に困難です。
書面に残すことで、契約内容が客観的に明確になり、当事者間の認識の齟齬を防ぎます。

1-2. 紛争の未然防止

契約内容が書面で明確になっていれば、後から「追加工事の代金が支払われない」「工期の遅延の責任はどちらにあるのか」といったトラブルが発生した際に、契約書が公正な解決のための客観的な証拠となります。

つまり、契約書は、当事者双方を将来の紛争リスクから守るための「防波堤」の役割を果たすのです。

1-3. 下請負人の保護

建設業界では、元請負人と下請負人との間に力関係の差が生じやすいという実態があります。

書面契約を義務付けることは、元請負人が一方的に不利な条件を押し付けたり、契約内容を曖昧にしたまま不当に低い金額で工事を強いたりすることを防ぎ、立場の弱い下請負人を保護するという重要な目的も担っています。

2建設業法が認める「書面契約」の具体的な方法

建設業法が求める書面契約は、「当事者がそれぞれ署名または記名押印し、相互に交付する」ことが基本原則です。

この原則を満たすための具体的な契約方法には、主に以下の3つのパターンがあります。

2-1. 方法①:工事ごとに「請負契約書」を交わす

最も基本的で確実な方法です。
一つの工事について、後述する法定記載事項をすべて盛り込んだ契約書を2通作成し、双方が署名または記名押印の上、1通ずつ保管します。

2-2. 方法②:「基本契約書」+「注文書・請書」

継続的に取引がある当事者間でよく用いられる方法です。
まず、取引全般に共通する基本条件(紛争解決の方法、不可抗力時の対応など)を定めた「工事請負基本契約書」をあらかじめ締結しておきます。

そして、個別の工事を発注する際に、その工事に特有の事項(工事内容、請負代金、工期など)を記載した「注文書」と「請書」を取り交わす方法です。

この場合も、基本契約書と注文書・請書を合わせて、法律が求める全ての記載事項が網羅されている必要があります。

2-3. 方法③:「注文書・請書」のみ

比較的小規模な工事などで、注文書と請書の交換のみで契約を締結する方法です。
この場合、その注文書・請書に法定記載事項がすべて盛り込まれているか、あるいは法定記載事項を網羅した「約款」を添付し、一体のものとして扱われるようにしなければなりません。

2-4. 建設業法違反となるケースと電子契約について

⑴違反となる例:
「署名または記名押印がない」「一方しか書面を保管していない(相互に交付していない)」「注文書のみで、請書がない」といったケースは、建設業法違反となります。

⑵電子契約の有効性:
近年普及が進んでいる電子契約も、建設業法上の書面契約として認められています。
ただし、その場合は、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)に定められた電子署名が行われているなど、一定の技術的基準を満たしている必要があります。

3契約書に必ず記載すべき16の項目

建設業法第19条第1項では、契約書に記載すべき事項として、以下の16項目を定めています。
これらの項目が一つでも欠けていると、法令違反となる可能性があるため、注意が必要です。

(1) 工事内容
(2) 請負代金の額
(3) 工事着手の時期及び工事完成の時期
(4) 請負代金の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
(5) 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
(6) 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
(7) 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
(8) 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
(9) 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
(10) 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
(11) 工事を完成した後の請負代金の支払の時期及び方法
(12) 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
(13) 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
(14) 契約に関する紛争の解決方法
(15) その他国土交通省令で定める事項
(16) (建設リサイクル法対象工事の場合)分別解体等の方法、費用など4項目

これらの項目をすべて自社で作成するのは大変な作業です。

そのため、国土交通省が推奨する「建設工事標準請負契約約款」や、建築関係4団体が定める「民間連合協定工事請負契約約款」などのテンプレートを活用することが、法令遵守と実務の効率化の観点から非常に有効です。

4まとめ

建設工事の請負契約における書面契約は、建設業法で定められた絶対的なルールです。
これは、当事者間の無用な紛争を防ぎ、特に下請負人の保護を図ることで、建設業界全体の健全な発展を促すための重要な仕組みと言えます。

しかし、法律で定められた16項目以上を網羅した契約書を、工事のたびに作成・確認するのは、決して簡単なことではありません。
「どのような書式を使えば良いのか」「自社の状況に合わせて、どのような特約を加えれば良いのか」など、お悩みは尽きないかと存じます。

当事務所は、建設業許可や関連法令に精通し、企業のコンプライアンス遵守をサポートする専門家です。

元岩手県職員としての経験と、弁護士や税理士など他士業との連携を活かし、貴社の実情に合わせた契約書の作成支援やリーガルチェックを行います。
契約に関するご相談も、お気軽にお寄せください。

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