
「元請から、契約後に『このメーカーの資材を使ってくれ』と指示された…」
「元請の関連会社から資材を買うように、暗に強要されている気がする…」
「資材や購入先の指定は、どこまでが適法で、どこからが建設業法違反なの?」
こんな疑問や圧力を感じたことはありませんか?
ご安心ください。
そのお悩みは、建設業法が定めるルールを正しく理解することで、明確な答えが見つかります。
この記事では、元請負人による使用資材や購入先の指定について、どのような場合に建設業法違反となるのか、その判断基準と具体的なケースについて分かりやすく解説します。
建設工事の現場において、元請負人と下請負人との間の円滑な協力関係は、工事の品質と安全を支える生命線です。
その関係性において、元請負人が下請負人に対して使用する建設資材やその購入先を指定すること自体は、工事の品質や仕様を統一するために、一定の合理性が認められる場合があります。
しかし、その指示の仕方やタイミング、背景にある意図によっては、元請負人がその優越的な地位を不当に利用し、下請負人の利益を害する「不当な使用資材等の購入強制」として、建設業法第19条の4で固く禁止される行為に該当する可能性があります。
今回は、このデリケートな問題について、どのようなケースが法令違反となるのか、その判断基準を詳しく見ていきましょう。
1「不当な使用資材等の購入強制の禁止」とは?
まず、建設業法第19条の4が何を禁止しているのか、その条文と趣旨を正確に理解することが重要です。
1-1. 建設業法のルール
法律では、元請負人が「自己の取引上の地位を不当に利用して」、その下請負人に対して、「その請け負つた建設工事に使用する資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、その購入を強制して、その下請負人の利益を害すること」を禁止しています。
この条文から、違反となるためには、以下の3つの要素が関連し合っていることが分かります。
① 自己の取引上の地位の不当な利用
② 資材や購入先の指定・購入強制
③ 下請負人の利益を害すること
1-2. なぜこの行為が禁止されるのか?
この規定の背景には、下請負人の保護という大きな目的があります。
元請負人がその強い立場を利用して、下請負人に不利益な取引を強いることを防ぐためのものです。
例えば、元請が関連会社を儲けさせるために、相場より高い資材を下請に買わせるような行為は、下請の利益を不当に奪い、ひいては工事全体のコスト増や品質低下にも繋がりかねません。
このような不公正な取引慣行を排除し、建設市場の健全性を保つことが、このルールの趣旨です。
2建設業法違反となるかどうかの4つの判断基準
では、具体的にどのような場合に「不当な購入強制」と見なされるのでしょうか。その判断は、いくつかの基準を総合的に考慮して行われます。
2-1. 基準①:指定のタイミング(契約前か、契約後か)
資材等を指定するタイミングは、適法性を判断する上で極めて重要な要素です。
⑴契約締結「前」の指定:
元請負人が、見積もりを依頼する段階で、使用する資材のメーカーや品番などを具体的に指定したとします。
この場合、下請負人はその指定された資材の価格を基に見積もりを作成し、契約金額を交渉することができます。
したがって、下請負人の自由な判断が阻害されているとは言えず、原則として建設業法違反にはなりません。
⑵契約締結「後」の指定:
問題となるのは、契約を締結した後に、当初の契約内容にはなかった資材の使用や購入先の変更を指示するケースです。
例えば、下請負人が安価なA社の資材で見積もり、契約したにも関わらず、元請負人が後から「高価なB社の資材を使え。ただし契約金額は変更しない」と指示した場合、その差額は下請負人が負担することになり、明確にその利益を害します。これは、建設業法違反となる可能性が非常に高い典型的な例です。
2-2. 基準②:自己の取引上の地位の不当な利用
「自己の取引上の地位を不当に利用する」とは、元請負人が、下請負人を選定できるという優越的な立場を背景に、下請負人の自由な意思決定を妨げ、経済的に不当な圧力をかける行為を指します。
重要なのは、たとえ下請負人がその指示に「承諾」していたとしても、その承諾が元請との今後の取引関係を考慮した、事実上の「泣き寝入り」であると判断されれば、元請負人の行為は「不当な利用」と見なされるという点です。
〇不当な利用と見なされやすい例:
・ 「この資材を買わないなら、次の仕事は回さない」といった趣旨の発言をする。
・ 合理的な理由なく、特定の関連会社からの購入を執拗に要求する。
2-3. 基準③:下請負人の利益を害するかどうか
指定された資材や購入先を利用することが、結果として下請負人の利益(コスト削減の機会や、より良い条件で仕入れる機会など)を害するかどうかも重要な判断基準です。
〇 利益を害する例:
・ 市中価格よりも著しく高価な資材の購入を強制する。
・ 品質や性能が同等であるにもかかわらず、特定の高価な製品を指定し、下請負人がより安価な同等品を選ぶ機会を奪う。
・ 購入先を指定することで、下請負人が現金取引ではなく手形取引を強制されるなど、支払い条件が不利になる。
2-4. 基準④:指定する「正当な理由」の有無
資材等を指定することに、工事の品質確保などの観点から「正当な理由」があるかどうかも考慮されます。
〇 正当な理由と認められやすい例:
・ 発注者からの特別な指定や、設計図書で特定の製品が指定されている場合。
・ 工事全体の品質や性能を確保するために、その資材でなければならない特段の技術的な理由がある場合。
しかし、たとえ正当な理由があったとしても、それが下請負人に不当な不利益を与える場合には、やはり建設業法違反と判断される可能性があります。
3全体の整理
元請負人が下請負人に対して使用資材や購入先を指定する行為は、それ自体が直ちに違法となるわけではありません。
しかし、その背景に「優越的地位の不当な利用」があり、結果として「下請負人の利益を害する」場合には、建設業法違反という重い評価を受けることになります。
最も重要なのは、契約前の段階で、見積もりに必要な情報をできる限り具体的かつ透明性をもって提示し、双方が納得の上で契約を締結することです。
そして、契約後にやむを得ず仕様変更等が必要になった場合には、一方的に指示するのではなく、誠実に協議し、必要であれば公正な代金額の変更を行うことが、健全なパートナーシップを維持し、トラブルを未然に防ぐための唯一の道と言えるでしょう。
4まとめ
元請負人による使用資材や購入先の指定は、時として建設業法に違反し、深刻な下請けトラブルに発展する可能性があります。
自社の取引慣行が、法令を遵守し、下請負人との間で公正な関係を築けているか、今一度ご確認いただくことが重要です。
「この指示は、法的に問題ないだろうか」「元請との契約関係で悩んでいる」など、建設業法に関するコンプライアンスや契約に関するお悩みは、専門家である行政書士にご相談ください。
当事務所は、元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の事業運営におけるリスクを洗い出し、適法で健全な経営体制の構築をサポートいたします。
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