元請負人の責務とは?

「元請として、現場の下請業者が法律を守っているかまで、どこまで責任を持てばいいのだろう?」
「下請業者の違反を見つけた時、具体的にどう対応すればいいのか…」
「自社のコンプライアンス体制は、法律が求める元請の責務を果たせているだろうか?」
こんな疑問や不安を抱えていませんか?

ご安心ください。
そのお悩みは、建設業法に定められた「元請負人の責務」を正しく理解することで、明確な答えが見つかります。

この記事では、建設工事の統括者である元請負人に課せられた重要な役割、特に下請負人への指導監督に関する3つの責務と、その対象範囲について、分かりやすく解説します。

建設工事において、発注者から直接工事を請け負う「元請負人」は、単に工事を完成させるだけでなく、工事現場全体が法令を遵守し、適正な施工体制で運営されるよう、重い責任を負っています。

特に、特定建設業者として元請の立場になった場合、その責任は下請負人の行為にまで及びます。
この「元請負人の責務」を正しく理解し、実践することは、企業のコンプライアンス体制の根幹であり、企業の信用、ひいては建設業許可の維持にも直結する極めて重要なテーマです。

今回は、建設業法第24条の7を基に、元請負人が果たすべき役割について詳しく見ていきましょう。

1元請負人の役割

元請負人は、自社が建設業法を遵守するのはもちろんのこと、その工事に関わる全ての下請負人が、建設関連の各種法令に違反しないよう、指導・監督する役割を担います。
これは、建設生産システム全体の適正化を図り、工事の品質を確保し、発注者や社会の信頼に応えるための、元請負人ならではの責務と言えます。

2建設業法が定める「元請負人3つの責務」

建設業法第24条の7では、元請負人が下請負人に対して負うべき責務を、具体的に以下の3段階で定めています。

2-1. 責務①:法令遵守のための「指導」

まず、元請負人は、下請負人やその従業員が、建設工事の施工において法令に違反する行為を行わないよう、常に適切な指導を行う必要があります。

これは、問題が発生してから対応するのではなく、事前に法令違反のリスクを予見し、それを防ぐための予防的な措置を講じることを意味します。

例えば、安全管理計画の周知徹底、適正な契約書式の提供、法令改正に関する情報提供などがこれに当たります。

2-2. 責務②:違反行為に対する「是正指導」

もし、下請負人に法令違反の疑いがある行為を発見した場合、元請負人はその事実を指摘し、改善を求める「是正指導」を行わなければなりません。

見て見ぬふりをしたり、「下請けのやったことだから関係ない」という態度をとったりすることは、元請負人としての責務を放棄したと見なされます。

是正指導は、口頭だけでなく、書面で明確に行い、その記録を残しておくことが、後のトラブル防止の観点からも重要です。

2-3. 責務③:是正されない場合の「行政庁への通報」

是正指導を行ったにもかかわらず、下請負人がそれに従わず、違反状態が改善されない場合、元請負人には最終手段として、その旨を許可行政庁(建設業許可を受けた都道府県知事や国土交通大臣)へ通報する義務が課せられています。

これは非常に重い判断を伴いますが、工事全体の適法性を確保し、より大きな問題へ発展するのを防ぐための、元請負人に課せられた最後の砦とも言える責務です。

3どこまでが責任範囲?

元請負人が指導・監督すべき下請負人の範囲は、どこまで及ぶのでしょうか。答えは、「その工事に携わる、すべての下請負人」です。

自社が直接契約した一次下請負人はもちろんのこと、その先の二次下請負人、三次下請負人、さらには個人事業主の職人一人に至るまで、元請負人の現場に入って作業を行うすべての事業者が対象となります。

工事現場というピラミッドの頂点に立つ元請負人には、その末端に至るまでのコンプライアンスを統括する責任があるのです。

4遵守を指導すべき法令の範囲

元請負人が遵守を指導すべき法令は、建設業法だけにとどまりません。
建設業法施行令第7条の3では、具体的に以下の法律が挙げられています。

4-1. 建設業法

一括下請負の禁止、不当に低い請負代金の禁止、契約書面の交付義務など、建設業の根幹をなすルールです。

4-2. 建築基準法

建物の構造耐力、防火・避難規定など、建築物の安全性を確保するための法律です。

4-3. 宅地造成及び特定盛土等規制法

宅地造成や盛土工事における崖崩れや土砂の流出を防止するための法律です。

4-4. 労働基準法

労働時間、休日、賃金など、労働者の基本的な権利を守るための法律です。
下請業者が従業員に違法な長時間労働をさせていないか、なども指導の対象となり得ます。

4-5. 職業安定法・労働者派遣法

労働者の募集や、労働者派遣のルールに関するものです。
偽装請負など、不適切な就労形態が行われていないかを監督します。

4-6. 労働安全衛生法

現場での墜落防止措置、重機の安全な使用、健康診断の実施など、労働者の安全と健康を守るための最も重要な法律の一つです。
この他にも、廃棄物の適正処理を定める「廃棄物処理法」など、工事の内容に応じて様々な法令が関係してきます。

元請負人には、これらの幅広い法令知識と、それを現場で実践させる指導力が求められます。
国土交通省の各地方整備局が公表している「建設業法に基づく適正な施工の確保に向けて」といった手引きも、具体的な指導内容を理解する上で非常に参考になります。

5全体の整理

元請負人に課せられたこれらの責務は、一見すると負担に感じられるかもしれません。
しかし、これらを誠実に果たすことは、単なる法令遵守以上の意味を持ちます。

現場全体のコンプライアンスレベルを高めることは、工事の品質を向上させ、労働災害のリスクを低減し、結果として発注者からの信頼を高めます。
また、下請負人との間に公正で良好な関係を築くことは、将来にわたって協力してくれる優れたパートナーを確保することにも繋がります。

元請負人の責務を果たすことは、自社の経営基盤を強固にし、企業の持続的な成長を実現するための、未来への重要な投資と言えるでしょう。

6まとめ

元請負人に課せられた下請指導の責務は、建設業法に定められた重要な義務であり、企業のコンプライアンス体制の根幹です。この責務を怠った場合、監督処分の対象となる可能性もあります。

「自社の指導体制は十分だろうか」「下請業者との関係で、法的に注意すべき点は何か」など、具体的なお悩みや疑問がございましたら、ぜひ専門家にご相談ください。

当事務所は、建設業法務の専門家として、企業のコンプレアンス体制構築をサポートします。元岩手県職員としての経験と、弁護士や社会保険労務士など他士業との連携を活かし、貴社が抱える課題に対し、最適な解決策をご提案いたします。

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