やり直し工事の費用は誰が負担?

「下請工事でミスが見つかり、元請からやり直しを指示されたが、その費用はどちらが負担するの?」
「元請の指示が曖昧だったのに、一方的にやり直しを命じられて困っている…」
こんな疑問やトラブルに悩んでいませんか?

ご安心ください。
その悩みは、建設業法が定める「やり直し工事」のルールを正しく理解することで、解決への道筋が見えてきます。

この記事では、建設工事におけるやり直し(手直し)工事の費用負担の原則と、適法な手続きの流れについて、分かりやすく解説します。

建設工事の現場では、細心の注意を払っていても、施工のやり直し(手直し)が発生してしまうことがあります。

この「やり直し」は、その費用負担や責任の所在をめぐって、元請負人と下請負人との間で深刻なトラブルに発展しやすい、非常にデリケートな問題です。
元請負人がその優越的な地位を利用して、本来負担すべき費用を下請負人に押し付けるような行為は、「不当なやり直し」として建設業法で固く禁じられています。

今回は、すべての建設業者が知っておくべき、このやり直し工事に関する費用負担の原則と、正しい手続きの流れについて詳しく見ていきましょう。

1やり直し工事を指示する際の基本的な考え方

まず、元請負人が下請負人に対して工事のやり直しを求めること自体の是非について、基本を押さえておく必要があります。

1-1. 元請負人の責務

大前提として、元請負人には、下請負人に対して明確な指示を行い、十分な協議を尽くすことで、そもそもやり直し工事が発生しないように現場を管理する責務があります。
曖昧な指示や不十分なコミュニケーションが、後の手直しの原因となるケースは少なくありません。

1-2. やり直しを求めることは当然の権利か?

一方で、下請工事が完成した後に、その出来栄えが契約内容と異なっていたり、明らかな欠陥(法律用語で「契約不適合」と言います)があったりした場合、下請負人は契約上の義務を果たしたことにはなりません。

そのため、元請負人が下請負人に対し、契約通りに工事を完成させるよう、やり直しを求めること自体は当然の権利と言えます。

問題となるのは、そのやり直しの理由と、費用の負担、そして指示の方法です。

2核心的な問題

やり直し工事で最も大きな争点となるのが、その費用負担です。
建設業法は、この点について明確な考え方を示しています。

2-1. 原則は「元請負人」の負担

驚かれるかもしれませんが、やり直し工事の費用は、原則として元請負人が負担すべきものとされています。

なぜなら、元請負人は、発注者から工事全体を請け負い、その施工管理について全責任を負う立場にあるからです。
下請負人は、元請負人の作成した施工計画や指示に基づいて作業を行います。

したがって、その結果として生じたやり直しの責任も、基本的には統括管理者である元請負人が負う、というのが法律の基本的なスタンスです。

2-2. 例外:下請負人が負担するケース

ただし、もちろん例外があります。
そのやり直しが、明らかに「下請負人の責めに帰すべき理由」によって生じた場合には、その費用を下請負人に負担させることが認められます。

具体的には、以下のようなケースが該当します。

⑴契約内容との不適合:
契約書や設計図書で定められた仕様・品質基準を満たしていない場合。
⑵施工の瑕疵(かし):
下請負人の技術力不足や単純なミス、手抜き工事など、施工内容そのものに明らかな欠陥がある場合。
⑶元請負人の指示違反:
元請負人が適切かつ具体的な指示を出したにもかかわらず、下請負人がその指示に従わずに施工し、結果としてやり直しが必要となった場合。

重要なのは、下請負人の責任を問うためには、その原因が下請負人にあることを、元請負人側が客観的に証明する必要があるという点です。

3適法な「やり直し工事」の正しい進め方

やり直し工事が必要となった場合、その進め方にも法律上のルールがあります。
これを無視すると、たとえ下請負人に原因があったとしても、元請負人が建設業法違反に問われる可能性があります。

3-1. ステップ①:やり直しの必要性に関する十分な協議

まず、やり直しが必要となった原因について、元請負人と下請負人の間で十分に協議し、事実関係と責任の所在を明らかにすることが第一歩です。
一方的にやり直しを指示するのではなく、なぜやり直しが必要なのか、その費用負担はどうするのかについて、冷静に話し合う場を設ける必要があります。

3-2. ステップ②:変更契約書の締結

協議の結果、やり直し工事を行うことになった場合、必ず「そのやり直し工事に着手する前に」、変更契約書を取り交わさなければなりません。
これは、建設業法第19条第2項で義務付けられています。

口頭での指示だけでやり直し工事をさせてしまうと、後からその費用や内容について「言った・言わない」のトラブルに発展する元凶となります。
変更契約書には、変更後の工事内容、工期、請負代金の額(費用負担の合意内容)などを明確に記載し、双方が署名または記名押印の上、交付し合う必要があります。

3-3. ステップ③:費用負担に関する注意点(不当に低い代金の禁止)

やり直し工事の費用を下請負人に負担させる場合であっても、その全てを一方的に押し付けることはできません。

また、元請負人が費用の一部を負担する場合、その金額を不当に低く設定することも、建設業法第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)に違反する恐れがあります。

やり直しに「通常必要と認められる原価」を考慮し、公正な費用負担について、双方が納得するまで協議することが求められます。

4全体の整理

建設工事における「やり直し」は、元請・下請双方にとって時間的にも経済的にも大きな負担となります。

その負担と責任をめぐるトラブルを回避するための最善策は、まず当初の契約段階で、明確で具体的な内容の契約書を交わすことです。

そして、万が一やり直しが必要となった場合には、一方的な指示ではなく、法律のルールに則って、誠実に協議し、その合意内容を書面(変更契約書)に残すことです。

このような透明性の高いコミュニケーションこそが、元請負人と下請負人との間の健全な信頼関係を築き、企業を不要なリスクから守ることに繋がります。

5まとめ

建設工事の「やり直し」は、費用負担をめぐり深刻な紛争に発展しやすい問題です。建設業法は、元請・下請間の公正な取引を確保するため、費用負担の原則や、変更契約の書面化を厳格に定めています。

「このやり直し指示は、法的に問題ないだろうか」「元請との費用交渉がうまくいかない」など、契約やコンプライアンスに関するお悩みは、専門家である行政書士にご相談ください。

当事務所は、元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の実情に合わせた契約関係のアドバイスや、トラブル防止体制の構築をサポートいたします。

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