下請代金の支払ルール

「下請への支払日、自社の都合で決めてしまっているけど、法的に問題ないだろうか…」
「『月末締め・翌月末払い』という慣習、実は建設業法違反になるって本当?」
「特定建設業者の支払ルールがよく分からない…」
こんな疑問や不安を感じていませんか?

ご安心ください。
そのお悩みは、建設業法が定める「下請代金の支払ルール」を正しく理解することで解決できます。

この記事では、下請負人の経営安定と業界の健全な発展のために定められた、支払期日や支払方法に関する重要なルールについて、具体的に解説します。

建設業界において、元請負人と下請負人との間の信頼関係は、プロジェクトを成功に導くための最も重要な要素の一つです。その信頼関係の根幹をなすのが、公正で迅速な「下請代金の支払い」です。

下請負人への支払いが滞れば、その経営は不安定になり、ひいては工事全体の品質低下や安全管理の不徹底、さらには労働災害といった深刻な事態を招きかねません。

このような状況を防ぎ、建設産業全体の健全な発展を促すため、建設業法では下請代金の支払いについて、厳格なルールを定めています。

今回は、すべての元請負人が遵守すべき、この支払いに関するルールについて詳しく見ていきましょう。

1すべての元請負人に共通する支払いの基本ルール

まず、一般建設業者・特定建設業者を問わず、すべての元請負人が守らなければならない基本的な支払いのルールを確認します。

1-1. ルール①:発注者からの受領後「1ヶ月以内」の支払い義務

建設業法第24条の5第1項では、元請負人は、発注者から請負代金の支払いを受けたときは、その支払を受けた日から1ヶ月以内で、かつ、できる限り短い期間内に、下請代金を支払わなければならない、と定められています。

これは、下請工事が完成し、引渡しが完了している部分に対応する代金について適用されます。
ポイントは「1ヶ月以内」という明確な期限と、「できる限り短い期間内」という迅速な支払いを求める努力義務が課せられている点です。

1-2. ルール②:前払金も「1ヶ月以内」

この「1ヶ月以内」ルールは、発注者から元請負人に前払金が支払われた場合にも準用されます。
元請負人は、下請負人が施工するために必要な資材購入や労働者の確保ができるよう、受け取った前払金を原資として、下請負人に対しても同様に前払金を支払い、その支払日も元請が受領した日から1ヶ月以内としなければなりません。

1-3. ルール③:支払方法は「現金」が基本

2020年(令和2年)10月の改正建設業法により、下請代金の支払手段に関する規定が追加されました(建設業法第24条の3)。

これにより、元請負人は、下請代金のうち、少なくともその工事の労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をしなければならない、とされています。

これは、現金化に時間のかかる手形などによる支払いを抑制し、下請負人の資金繰りを改善させ、現場で働く技能労働者に確実に賃金が行き渡るようにするための重要なルールです。

ここでいう「現金」とは、現金通貨だけでなく、銀行振込など、すぐに資金化できるものを含みます。

2「特定建設業者」に課せられる、より厳しい支払ルール

発注者から直接請け負った一件の工事につき、下請契約の総額が一定額(建築一式工事の場合は8,000万円、それ以外は5,000万円 ※令和5年1月13日改正後)以上になる場合に必要となる「特定建設業許可」。

この特定建設業許可を持つ元請負人には、下請保護の観点から、さらに厳しい支払ルールが課せられています。

2-1. ルール④:「引渡し申出日から50日以内」の支払い義務

建設業法第24条の6第1項では、特定建設業者は、下請負人から工事目的物の引渡しの申出があった日から起算して、50日以内に下請代金を支払わなければならない、と定めています。

これが一般建設業者との最大の違いであり、最も重要なポイントです。
つまり、特定建設業者は、たとえ発注者からまだ入金がなかったとしても、この50日という期限内に下請代金を支払う義務があるのです。

2-2. 2つの期限の「いずれか早い方」で支払う

さらに、特定建設業者は、上記1-1の「発注者からの受領後1ヶ月以内」というルールと、この「引渡し申出日から50日以内」というルールを比較し、いずれか早い方の期日までに支払いを完了させなければなりません。

例えば、引渡し申出日から30日後に発注者から入金があった場合、そこから1ヶ月以内ではなく、あくまで引渡し申出日から50日以内という期限が優先されます(このケースでは、より早い50日という期限が適用)。

2-3. 「50日ルール」の適用除外

ただし、この厳しい50日ルールには例外があります。
下請負人が特定建設業者である場合、または資本金額が4,000万円以上の法人である場合は、このルールの適用対象外となります。

これは、一定規模以上の体力がある下請負人については、特別な保護の必要性が低いと判断されるためです。

3慣習的な支払サイトの落とし穴

多くの業界で慣習となっている「月末締め、翌月末払い」。
一見、問題ないように思えますが、建設業、特に特定建設業者が元請の場合、この支払サイトが建設業法違反となるケースがあるので、細心の注意が必要です。

3-1. 「50日ルール」との関係

問題となるのは、この支払サイトが「引渡し申出日から50日以内」という期限を超えてしまう可能性がある点です。

<具体例で検証>
下請工事の引渡し申出日が6月2日だったとします。
この場合、特定建設業者である元請負人の支払期限は、50日後の7月22日となります。

しかし、支払サイトが「月末締め、翌月末払い」の場合、6月分の請求は6月末で締められ、支払日は7月末の7月31日となってしまいます。

このケースでは、法定の支払期限(7月22日)を9日間もオーバーしてしまい、明確な建設業法違反となるのです。

このように、月初に引渡しが行われた場合、「月末締め、翌月末払い」では50日ルールを遵守できない可能性が非常に高くなります。
自社の支払が、このルールに抵触していないか、今一度確認することが重要です。

4全体の整理

建設業法が定める下請代金の支払ルールは、下請負人の経営を守り、建設産業全体の健全な発展を支えるための根幹をなすものです。

特に特定建設業者の皆様は、自社の資金繰りとは関係なく、法で定められた期限内に支払う義務があることを強く認識する必要があります。

これらのルールを遵守することは、法令違反による監督処分や罰則のリスクを回避するだけでなく、下請負人との強固な信頼関係を築き、協力会社から「選ばれる元請」となるための第一歩です。

自社の契約内容や支払サイトを今一度見直し、コンプライアンスに基づいた公正な取引を徹底していきましょう。

5まとめ

建設業法が定める下請代金の支払ルールは、企業のコンプライアンス体制の根幹であり、下請負人との信頼関係を築く上での基本です。

特に「特定建設業者」の皆様は、その厳しい支払期限のルールを正しく理解し、遵守する必要があります。

「自社の支払サイトは、法的に問題ないだろうか」「元請との支払条件で悩んでいる」など、契約や法令遵守に関するお悩みは、専門家である行政書士にご相談ください。

当事務所は、元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の実情に合わせたコンプライアンス体制の構築や、契約書の見直しをサポートします。まずはお気軽にお問い合わせください。

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