偽装請負は違反

「現場で下請の作業員に直接指示を出してしまった…これって偽装請負?」
「請負契約なのに、実質的にはうちの従業員のように働いてもらっている…」
「偽装請負と判断されたら、どんな罰則があるの?」
こんな疑問や不安を感じたことはありませんか?

ご安心ください。
そのお悩みは、「偽装請負」の判断基準と正しいルールを理解することで解決できます。

この記事では、建設業の現場で問題となりがちな偽装請負とは何か、その判断のポイントと、法令違反とならないための具体的な注意点について、分かりやすく解説します。

建設業界において、下請負人や一人親方との「請負契約」は、日常的に行われる取引形態です。

しかし、その契約の実態が、元請負人による安易な労働力の確保や、社会保険料負担などの義務を免れるための隠れ蓑として利用された場合、「偽装請負」という深刻な法律違反に問われる可能性があります。

「うちは大丈夫」と思っていても、知らず知らずのうちに偽装請負と判断されるケースは少なくありません。

企業のコンプライアンスと信用を守るため、この偽装請負の問題について、その本質と対策を詳しく見ていきましょう。

1「偽装請負」とは何か?

まず、「偽装請負」とは具体的にどのような状態を指すのか、その定義を正確に理解することが重要です。

1-1. 形式と実態の不一致

偽装請負とは、契約書の形式上は「請負契約」や「業務委託契約」となっているにもかかわらず、その働き方の実態が「労働者派遣」または「労働者供給(直接雇用)」に該当する状態を指します。

建設業の現場で特に問題となるのは、元請負人が、請負契約を結んだ下請負人の作業員に対して、直接的に業務の指示を出したり、勤怠管理を行ったりする「指揮命令関係」が生じているケースです。

1-2. 判断の核心

請負契約と、労働者派遣・雇用契約を分ける最も重要な判断基準は、注文者(元請負人)と、下請負人に雇用されている労働者との間に、指揮命令関係があるかどうかです。

⑴ 適法な請負契約:
元請負人は、下請負人(またはその現場代理人)に対して仕事の完成を指示するのみ。
下請負人が、自社の裁量と責任で、自社の労働者に具体的な指示を出し、業務を遂行します。

⑵ 偽装請負(実質的な労働者派遣・雇用):
元請負人が、下請負人の労働者一人ひとりに対して、直接「あれをやれ」「こうしろ」といった具体的な作業指示や、残業命令、時間管理などを行います。
この指揮命令関係の有無が、契約の実態を判断する上での核心となります。

1-3. なぜ偽装請負が起きてしまうのか?

元請負人が偽装請負に手を出してしまう背景には、雇用主としての責任を回避したいという動機があります。

⑴ 社会保険料・労働保険料の負担回避:
労働者を直接雇用すれば発生する、健康保険、厚生年金、雇用保険などの保険料負担を免れようとします。

⑵ 労働基準法上の義務回避:
時間外手当(残業代)の支払いや、有給休暇の付与、解雇制限といった、労働基準法上の使用者責任から逃れようとします。

⑶ 自由な人員調整:
必要な時にだけ労働力を確保し、不要になれば簡単に契約を打ち切りたいという思惑があります。

これらはすべて、本来労働者を守るべき法規制を潜脱する行為であり、労働者にとっては極めて不利益な状況を生み出すため、偽装請負は固く禁止されています。

2偽装請負と判断された場合のリスク

偽装請負は、労働者派遣法や職業安定法に違反する行為であり、発覚した場合には、元請負人(派遣先)・下請負人(派遣元)の双方が厳しい罰則の対象となります。

具体的には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
さらに、行政指導や勧告、悪質な場合には企業名が公表されることもあり、企業の社会的信用を大きく損なうことになります。

3適法な請負と判断されるための基準

では、どのような状態であれば、適法な請負契約と認められるのでしょうか。
厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」では、以下の要件を総合的に勘案して判断されるとしています。

3-1. 業務の遂行に関する指示・管理

下請負人が、自社の労働者に対して、業務の遂行方法や段取りに関する指示、勤怠管理などを自ら行っていること。
元請負人が直接、下請の労働者の出退勤を管理したり、作業の細かい手順を指示したりするのはNGです。

3-2. 業務の完成に対する責任

下請負人が、契約した仕事の完成について、事業者としての全ての責任を負うこと。
単に労働時間を提供しているだけでなく、成果物(完成した工事)に対して責任を持つのが請負です。

3-3. 機械設備・資材等の準備と資金

下請負人が、自らの責任と負担で、業務に必要な機械や設備、資材を用意し、資金計画を立てていること。

3-4. 企画・専門性の存在

下請負人が持つ専門的な技術や経験、あるいは企画力などが業務に活かされていること。

これらの要件を満たし、「元請から独立して業務を処理している」と認められることが、適法な請負契約の基本です。

4注意!偽装請負と間違われやすいが、適法なケース

建設現場では、元請負人が下請作業員に指示を出しているように見える場面もありますが、全てが偽装請負に該当するわけではありません。

特に注意すべき2つの例外的なケースを解説します。

4-1. 安全衛生のための指示・指導

労働安全衛生法では、現場全体の安全を確保するため、元請負人は、関係請負人(下請負人)やその労働者に対して、安全衛生に関する必要な指導や指示を行わなければならないと定められています。

例えば、危険箇所への立入禁止の指示や、安全帯の使用徹底の呼びかけ、新規入場者への安全教育などは、元請負人の法的な義務です。

したがって、これらの安全確保を目的とした指示は、偽装請負における「指揮命令」には当たりません。

4-2. 限定的な技術指導

新しい機械や特殊な工法を導入する際など、元請負人が持つ技術的なノウハウを下請負人に伝える必要がある場合があります。

このようなケースで、下請負人の監督の下で、元請負人が下請作業員に対して、機械の操作方法を説明したり、施工上の注意点を実演したりするような限定的な技術指導は、直ちに偽装請負とは判断されません。

ただし、これが恒常的に行われたり、下請負人の裁量を奪うような一方的な指示になったりすると、指揮命令関係ありと見なされるリスクが高まります。

5全体の整理

偽装請負の問題を回避するために最も重要なことは、「契約書の内容」と「現場での働き方の実態」を一致させることです。
たとえ立派な請負契約書を交わしていても、現場で元請負人が下請作業員を自社の従業員同然に扱っていれば、それは偽装請負と判断されます。

元請負人としては、下請負人の自主性を尊重し、指揮命令系統を明確に分けること。
下請負人としては、自らが事業者であるという自覚を持ち、労働者を適切に管理することが求められます。

自社の業務体制に少しでも不安があれば、専門家のアドバイスを求め、コンプライアンスに基づいた健全な企業経営を心掛けましょう。

6まとめ

「偽装請負」は、知らず知らずのうちに行ってしまう可能性のある、非常にリスクの高い法令違反です。
厳しい罰則だけでなく、企業の信用を根本から揺るがしかねません。

自社の契約内容や現場での指示系統が、建設業法や労働者派遣法に照らして適正かどうか、今一度ご確認いただくことが重要です。

当事務所は、建設業法務の専門家として、企業のコンプライアンス体制構築を支援します。
元岩手県職員としての経験と、弁護士や社会保険労務士など他士業との連携により、貴社を法務リスクから守り、健全な事業運営をサポートいたします。

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