
「急いでいるから、注文書をメールで送って済ませてしまった」
「印紙税の節約になると思い、契約書を1通しか作っていない…」
「そもそも、FAXやメールでの契約やり取りって、法律的に問題ないの?」
こんな疑問や不安を感じたことはありませんか?
ご安心ください。
その疑問は、建設業法に定められた契約のルールを正しく理解することで解決できます。
この記事では、建設工事の請負契約において、なぜFAXやメールでのやり取りだけでは不十分なのか、そして適法な電子契約とは何か、印紙税との関係まで、分かりやすく解説します。
建設業界において、日々の業務の中で交わされる「注文書」や「請書」。
その手軽さから、FAXや電子メールでのやり取りで済ませてしまうケースも多いのではないでしょうか。
しかし、その慣習的なやり取りが、実は建設業法に違反している可能性があることをご存知でしょうか。
建設業法は、当事者間のトラブルを未然に防ぎ、公正な取引関係を確保するために、請負契約の締結方法について厳格なルールを定めています。
今回は、この契約書面の取り扱い、特にFAXやメールでのやり取りの是非と、それに代わる適法な「電子契約」について、詳しく見ていきましょう。
1建設業法が定める書面契約の基本原則
まず、なぜFAXやメールでのやり取りだけでは不十分なのかを理解するために、建設業法が定める契約の基本原則に立ち返る必要があります。
1-1. 「署名又は記名押印」と「相互交付」という絶対ルール
建設業法第19条第1項では、建設工事の請負契約を締結する際、法定の事項を記載した「書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない」と定められています。これが大原則です。
この条文のポイントは以下の2点です。
① 署名または記名押印があること
・ 署名: 本人が自筆で氏名を書くこと(サイン)。筆跡が残るため、本人の意思表示として高い法的効力を持ちます。
・ 記名: 手書き以外の方法(PCでの印字やゴム印など)で氏名を記載すること。この場合は、本人の意思確認のために必ず押印が必要となります。
② 書面の「原本」を相互に交付すること
作成した契約書面を、注文者(元請負人)と請負人(下請負人)の双方が、それぞれ原本として保有することが義務付けられています。
1-2. なぜFAXやメールでは認められないのか
上記の原則に照らし合わせると、FAXやメールで注文書・請書を送信する行為の問題点が見えてきます。
FAXで送信された文書や、メールに添付されたPDFファイルは、あくまで「写し(コピー)」であり、署名や押印がなされた「書面の原本」とは見なされません。
したがって、FAXやメールでのやり取りだけでは、法律が求める「書面の原本を相互に交付する」という要件を満たすことができず、建設業法違反となってしまうのです。
「後から原本を郵送するから大丈夫」という考え方もありますが、契約の締結時点(注文と承諾の意思が合致した時点)で書面の相互交付が完了していることが法の趣旨であるため、安易な運用は避けるべきです。
2適法な「電子契約」という選択肢
では、紙媒体を使わずに契約を締結する方法はないのでしょうか。
その答えが「電子契約」です。
建設業法では、一定の技術的基準を満たすことを条件に、電子データによる契約締結を認めています。
2-1. 電子契約が「書面契約」と見なされるための3つの要件
建設業法施行規則第13条の4第2項では、電子契約が有効と認められるために、以下の3つの要件を満たす措置を講じることを求めています。
① 本人性(誰が契約したか)の確認措置
契約の相手方が本人であることを確認できる仕組みが必要です。一般的には、電子署名法に定められた「電子署名」がこれに該当します。
メールアドレスによる認証だけでは不十分とされる可能性が高いです。
② 非改ざん性(内容が書き換えられていないか)の確認措置
ファイルに記録された契約内容について、契約締結後に改変が行われていないことを証明できる仕組みが必要です。
これには、一般的に「タイムスタンプ」の技術が用いられます。
③ 見読性(読める・印刷できるか)の確保
契約の相手方が、パソコンの画面などで契約内容を明瞭に確認でき、かつ、その内容を紙の書面として出力(印刷)できる状態であることが求められます。
2-2. 電子契約サービスの選定
これらの要件を自社だけで満たすのは非常に困難です。
そのため、一般的には、これらの基準を満たした民間の「電子契約サービス」を利用することになります。
サービスを導入する際には、そのサービスが建設業法が求める技術的基準(特に電子署名とタイムスタンプの仕組み)に対応しているかどうかを、サービス事業者にしっかりと確認することが重要です。
3印紙税の節約という大きなメリットと、陥りがちな違反行為
契約を書面で交わす際に、しばしば問題となるのが「印紙税」です。
この印紙税を節約したいという動機から、不適切な契約方法が取られてしまうケースが後を絶ちません。
3-1. 印紙税とは?
印紙税とは、印紙税法で定められた「課税文書」を作成した際に課される税金のことです。
建設工事の請負に関する契約書(注文書・請書も含む)は、この課税文書に該当し、契約金額に応じて定められた額の収入印紙を貼り付け、消印する必要があります。
重要なのは、印紙税の課税対象は「紙の文書」であるという点です。
3-2. 印紙税節約を目的とした、よくある建設業法違反の例
印紙税の負担を避けるために、以下のような方法が取られることがありますが、これらはすべて建設業法第19条に違反する行為ですので、絶対に行ってはいけません。
違反例①:契約書を1通しか作成しない
元請負人と下請負人のどちらか一方だけが記名押印した契約書の原本を保管し、もう一方にはそのコピーだけを交付する方法。これは「相互交付」の義務に違反します。
違反例②:注文書のみで請書を発行しない
元請負人が注文書を発行するだけで、下請負人がそれに対する承諾の意思を書面(請書)で返さない方法。これも「相互交付」が成立していません。
違反例③:FAXやメールだけで済ませる
前述の通り、これは原本の交付義務に違反します。
3-3. 電子契約が最強の印紙税対策である理由
では、適法に印紙税を節約する方法はないのでしょうか。
その答えが、ここでも「電子契約」です。
国税庁の見解では、電子契約は印紙税法上の「課税文書の作成」には該当しないとされています。
なぜなら、電子データは「紙の文書」ではないからです。
したがって、電子契約サービスを利用して契約を締結すれば、請負金額がいくらであっても印紙税は一切かかりません。
これは、特に高額な契約を頻繁に交わす建設業者にとって、非常に大きなコスト削減に繋がります。
コンプライアンスを遵守しつつ、印紙税も節約できる電子契約は、これからの建設業界において、ますます重要なツールとなっていくでしょう。
4全体の整理
建設工事の請負契約において、安易にFAXやメールだけで済ませる慣行は、建設業法違反のリスクを伴います。
当事者間の権利義務を明確にし、将来の紛争を防ぐためには、法律の原則に則った「署名または記名押印」と「書面の相互交付」が不可欠です。
そして、その原則を守りつつ、業務の効率化と印紙税の節約という大きなメリットを享受できるのが「電子契約」です。
自社の契約業務のあり方を今一度見直し、コンプライアンスと効率化を両立させる体制を構築することが、企業の持続的な成長と信頼確保に繋がります。
5まとめ
建設工事の請負契約における書面化は、法律で定められた重要な義務です。
FAXやメールでの安易なやり取りは、意図せず法令違反となるだけでなく、将来の深刻なトラブルの原因ともなりかねません。
コンプライアンスを遵守し、かつ印紙税の節約も実現する「電子契約」への移行は、これからの時代に必須の経営判断と言えるでしょう。
しかし、その導入や適切な運用には専門的な知識が必要です。
当事務所は、建設業法務の専門家として、貴社の実情に合わせた契約プロセスの見直しや、電子契約導入のサポートを行います。
元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社のコンプライアンス経営を力強く支援します。
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