
「請け負った工事、信頼できる協力会社にそっくりそのまま任せても良いのだろうか?」
「自社は施工管理だけを行い、実際の工事はすべて下請けに…これって『丸投げ』にならない?」
こんな疑問や不安を感じたことはありませんか?
ご安心ください。その疑問は、建設業法が定める「一括下請負の禁止」のルールを正しく理解することで、明確に解決できます。
この記事では、なぜ工事の丸投げが禁止されているのか、その具体的な定義と罰則、そして適法な下請契約を行うための重要なポイントについて、分かりやすく解説します。
建設業界において、元請負人と下請負人の協力関係は、工事を成功させるための根幹をなすものです。
しかし、元請負人が請け負った工事を、自らはほとんど関与せずに、そっくりそのまま他の業者に請け負わせる、いわゆる「一括下請負(丸投げ)」は、建設業法によって原則として固く禁止されています。
このルールを知らずに安易に工事を丸投げしてしまうと、厳しい罰則の対象となり、最悪の場合、企業の存続そのものを揺るがしかねません。
今回は、すべての建設業者が必ず理解しておくべき、この一括下請負の禁止について、その理由から具体的な対策までを詳しく見ていきましょう。
1なぜ「一括下請負(丸投げ)」は原則禁止されているのか?
建設業法第22条で定められている一括下請負の禁止。
なぜ法律は、これほど厳しく丸投げを禁じているのでしょうか。
その背景には、発注者、下請負人、そして建設市場全体を守るための、3つの重要な理由があります。
1-1. 理由①:発注者の信頼を裏切る行為だから
発注者は、元請負人の施工実績、技術力、経営管理能力、資力、そして社会的信用などを総合的に評価し、「この会社になら安心して任せられる」と信頼して工事を発注しています。
その元請負人が、発注者の知らないところで、実質的に何ら工事に関与せず、単に他の業者に横流しするだけだとしたら、それは発注者の信頼に対する明確な裏切り行為となります。
1-2. 理由②:様々な弊害を生む温床となるから
工事の丸投げは、数多くの問題を引き起こす温床となります。
・中間搾取の発生:
元請負人が何の役割も果たさずに手数料だけを抜き取る「中間搾取」が発生しやすくなります。
・工事の質の低下:
中間搾取によって下請負人に渡る工事金額が不当に低くなると、手抜き工事や品質の低下を招く恐れがあります。
・労働条件の悪化:
しわ寄せは、現場で働く技能労働者の賃金や安全対策の不備といった、労働条件の悪化にも繋がります。
・責任の所在の不明確化:
複数の業者が介在することで、工事に関する責任の所在が曖昧になり、万が一事故や欠陥が発生した際に、適切な対応がなされない危険性が高まります。
1-3. 理由③:建設市場の健全性を損なうから
一括下請負を許してしまうと、自社では全く施工能力を持たないにもかかわらず、営業力だけで仕事を受注し、それを下請けに流して利益を得るだけの、いわゆる「ブローカー的」な不良業者が参入しやすくなります。
これは、真面目に技術力を磨き、誠実に施工を行っている建設業者の経営を圧迫し、建設市場全体の健全な競争環境を阻害する要因となります。
2どこからが「一括下請負」?
では、法律上、どのような状態が「一括下請負」と判断されるのでしょうか。
重要なキーワードは「実質的な関与」です。
元請負人が、下請負人が行う工事の施工に対し「実質的に関与」していると認められない場合、一括下請負と見なされます。
2-1. 法律上の定義
一括下請負とは、元請負人が自らは施工に「実質的に関与」することなく、以下のいずれかの行為を行うことを指します。
① 請け負った建設工事の全部またはその主たる部分を、一括して他の業者に請け負わせること。
② 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の工事を、一括して他の業者に請け負わせること。
2-2. 禁止の範囲
この禁止ルールは、元請負人と一次下請負人との間だけでなく、一次下請負人から二次下請負人へ、二次から三次へと、すべての下請階層において適用されます。
また、工事を丸投げする側だけでなく、丸投げされる側(一括して請け負う側)も同様に禁止されています。
2-3. 例外的に認められるケース
一括下請負は原則として全面的に禁止ですが、民間工事に限り、あらかじめ発注者から「書面による承諾」を得た場合は、例外的に認められます。
ただし、たとえ発注者の承諾があっても、共同住宅の新築工事のように、多数の利用者がいる建物の場合は、一括下請負が禁止されています。
また、注意すべきは、あくまで「発注者」の承諾が必要であり、元請負人の承諾では認められないという点です。
3違反しないための鍵
一括下請負と判断されないためには、元請負人が「実質的に関与」することが不可欠です。
では、「実質的な関与」とは、具体的にどのような行為を指すのでしょうか。
3-1. 元請負人が主体的に果たすべき役割
国土交通省のガイドラインでは、「実質的な関与」とは、元請負人が自ら、総合的に企画、調整、指導を行い、工事を主体的に進めていくことを意味します。
具体的には、以下のような行為を、元請負人が責任を持って行う必要があります。
・施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理
・下請負人間の施工の調整
・下請負人に対する技術的な指導・監督
・発注者との協議・調整
・近隣住民への説明
3-2. 「技術者を配置しているだけ」では不十分
ここで非常に重要なのは、単に現場に主任技術者や監理技術者を配置しているだけでは、「実質的に関与」しているとは認められないという点です。
その技術者が、上記のような役割を主体的に果たしている実態がなければなりません。
名ばかりの技術者配置は、一括下請負と見なされる典型的なケースです。
4こんなケースは要注意!
言葉の定義だけでは分かりにくい部分もあるため、どのようなケースが一括下請負と判断されるのか、具体例を見ていきましょう。
4-1. 主要部分を丸投げするケース
例①:
住宅の新築工事一式を請け負った元請負人が、自らは基礎工事と内装仕上げ工事だけを行い、その他(躯体工事、屋根工事、外壁工事、設備工事など)の主要な工事をすべて一つの下請負人に請け負わせる。
例②:
塗装工事を請け負った元請負人が、自らは足場の設置だけを行い、最も重要な塗装作業そのものをすべて下請負人に行わせる。
4-2. 独立した工作物を丸投げするケース
例③:
複数棟からなる戸建て分譲住宅の新築工事(例えば、全体で6戸)のうち、1戸の工事を、基礎工事から完成までまるごと一つの下請負人に請け負わせる。
⇒解説:
この場合、元請負人は全体の一部の工事しか下請けに出していないように見えます。
しかし、その1戸の住宅は、他の住宅から「独立してその機能を発揮する工作物」に当たります。
このような独立した工作物の工事を、自ら実質的に関与することなく一括して請け負わせることも、一括下請負と見なされます。
これらの判断は、請負契約一つひとつに対して個別具体的に行われます。少しでも疑わしい点があれば、自己判断せず、専門家や行政庁に確認することが賢明です。
5まとめ
建設業法における「一括下請負(丸投げ)の禁止」は、建設業界の健全な秩序を保ち、発注者と下請負人双方を保護するための、極めて重要なルールです。
この規定に違反した場合、営業停止処分や許可の取消しといった厳しい行政処分、さらには刑事罰の対象となる可能性もあります。
「これくらいなら大丈夫だろう」という安易な判断が、企業の信用を失墜させ、経営の根幹を揺るがす事態に繋がりかねません。
自社の契約・施工体制が法令を遵守しているか、今一度ご確認ください。
当事務所は、建設業法務の専門家として、企業のコンプライアンス体制構築を支援します。
元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社が抱える課題に対し、最適な解決策をご提案いたします。
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