主任技術者と現場代理人は兼務できる?

「現場に配置する主任技術者に、現場代理人も兼務させて良いのだろうか?」
「『監督員』と『監理技術者』、名前は似ているけれど、役割はどう違うの?」
建設工事の現場における、これらの役職の線引きや兼務の可否について、正確に理解できていますか?

ご安心ください。
その疑問は、それぞれの役割と法的根拠を正しく整理することで、明確に解決できます。

この記事では、建設現場におけるキーパーソンである、技術者、現場代理人、監督員の3者の役割と、その兼務に関するルールについて、分かりやすく解説します。

建設工事の現場は、多くの専門家がそれぞれの役割を果たすことで、一つの大きな目標に向かって進んでいきます。その中でも、特に重要な役割を担うのが、「主任技術者・監理技術者」「現場代理人」「監督員」の3者です。

これらの役職は、しばしば混同されがちですが、その法的根拠、立場、そして職務内容は全く異なります。

そして、これらの役割を同一人物が「兼務」できるかどうかは、企業のコンプライアンスと、工事のスムーズな進行を左右する、極めて重要な問題です。
今回は、この3者の役割を明確に区別し、兼務に関するルールを詳しく見ていきましょう。

1現場における3つの重要な役割

まず、それぞれの役職が、どのような根拠に基づき、誰のために、何をするのかを正確に理解することが、すべての基本となります。

1-1. 主任技術者・監理技術者

⑴ 法的根拠: 建設業法 第26条
⑵ 立場: 受注者(建設業者)に所属
⑶ 役割:
建設工事の「技術上の管理」を行う責任者です。
施工計画の作成、工程・品質・安全の管理など、工事が設計図書通りに、かつ技術的に正しく行われることを確保するのが最大の使命です。
建設業法によって、その配置が義務付けられています。

1-2. 現場代理人

⑴ 法的根拠: 建設業法上の規定はなく、主に請負契約約款に基づいて設置
⑵ 立場: 受注者(建設業者)の代理人
⑶ 役割:
工事現場における、受注者側の全権代理人です。
現場の運営や取締り、請負代金の変更交渉や請求・受領など、契約の履行に関する一切の権限(技術上の管理を除く)を有します。
公共工事標準請負契約約款では、原則として現場への常駐が求められています。

1-3. 監督員

⑴ 法的根拠: 建設業法上の規定はなく、主に請負契約約款に基づいて設置
⑵ 立場: 注文者(発注者)の代理人
⑶ 役割:
注文者側の代理人として、契約が適切に履行されているかを監督する役割を担います。
受注者や現場代理人への指示、協議、承諾や、工事の検査・立会いなど、注文者の利益を代表して、工事の進行を管理・確認します。

2兼務の可否

これらの役割の違いを理解した上で、本題である「兼務」の可否について見ていきましょう。

2-1. ケース①:主任技術者・監理技術者と「現場代理人」の兼務

結論から言うと、これは「可能」です。 建設業法には、この兼務を禁止する規定はありません。

特に中小の建設業者においては、一人の有能な社員が、技術的な責任者と、現場全体の運営責任者を兼務することは、ごく一般的に行われています。

ただし、注意点として、両方の職務を適切に遂行できる能力と時間的な余裕があることが大前提となります。
特に「専任」が求められる大規模な工事では、現場代理人としての業務が過大になり、技術者としての専任性が損なわれないよう、配慮が必要です。

2-2. ケース②:主任技術者・監理技術者と「監督員」の兼務

結論から言うと、これは「不可能」であり、絶対に行ってはなりません。
なぜなら、両者の立場には、明確な「利益相反関係」があるからです。

⑴ 主任技術者等: 受注者の立場で、工事を完成させる責任を負う。
⑵ 監督員: 注文者の立場で、その工事が適切に行われているかを監督・検査する。

つまり、「工事を行う側」の人間が、同時に「その工事をチェックする側」の人間になることは、公正な監督・検査を不可能にする、明らかな利益相反行為です。

建設業法に直接的な禁止規定がなくとも、民法上の信義則や契約の趣旨に反するため、このような兼務は認められません。

2-3. ケース③:現場代理人と「監督員」の兼務

これもケース②と同様の理由で、「不可能」です。
受注者(建設業者)の代理人と、注文者(発注者)の代理人を、同一人物が務めることは、その立場が根本的に対立しているため、あり得ません。

3整理

建設現場における技術者、現場代理人、監督員の役割は、それぞれが異なる法律や契約に基づいており、その立場と責任は明確に区別されています。

特に、「主任技術者・監理技術者」と「現場代理人」の兼務は、多くの現場で効率的な運営のために行われていますが、それが認められるのは、あくまで両者が同じ「受注者側」の立場にあるからです。

一方で、「監督員」は、明確に「注文者側」の立場であり、受注者側のいかなる役職とも兼務することはできません。

この基本的な役割分担と、利益相反の考え方を正しく理解し、現場の体制を構築することが、法令を遵守し、健全で透明性の高い工事施工を実現するための、最も重要な第一歩と言えるでしょう。

4まとめ

建設現場における「主任技術者」「現場代理人」「監督員」の役割分担や兼務の可否は、建設業法と請負契約の両方を深く理解していなければ、正しく判断することが難しい問題です。
特に、利益相反に関する考え方は、企業のコンプライアンスの根幹に関わります。

「自社の現場体制は、法的に問題ないだろうか」「契約約款の定め方が分からない」など、現場の体制づくりに関するお悩みは、専門家である行政書士にご相談ください。

当事務所は、元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の実情に合わせた、法令遵守と効率的な事業運営を両立させる、最適な体制構築をサポートいたします。

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