
「営業所に置いている技術者に、現場の主任技術者も兼務させたいけど、問題ないだろうか?」
「本社の技術者を、支店が受注した工事の主任技術者に配置することはできる?」
「そもそも、現場の技術者になるための条件って何?」こんな疑問を感じたことはありませんか?
ご安心ください。
その疑問は、建設業法が定める技術者配置のルールを正しく理解することで解決できます。
この記事では、建設工事の現場に配置する主任技術者・監理技術者の基本的な要件と、多くの人が混同しがちな「営業所技術者」との違いや兼務の可否について、分かりやすく解説します。
建設工事の品質と安全を確保するため、建設業法は、全ての工事現場に、一定の資格や経験を持つ「主任技術者」または「監理技術者」を配置することを義務付けています。
同時に、建設業許可を維持するためには、各営業所に「営業所技術者(旧:専任技術者)」を常勤で配置する必要もあります。
この「営業所の技術者」と「現場の技術者」、どちらも重要な役割ですが、その職務内容や配置ルールは明確に異なります。
この違いを理解しないまま、安易に兼務させてしまうと、意図せず法令違反となる可能性もあります。
今回は、現場技術者の基本的な要件と、営業所技術者との関係性について、その核心を詳しく見ていきましょう。
1現場の司令塔、「主任技術者・監理技術者」になるための2大要件
まず、工事現場に配置される主任技術者・監理技術者になるためには、法律上、大きく分けて2つの要件をクリアしている必要があります。
1-1. 要件①:一定の資格または実務経験
一つ目は、技術者個人の能力に関する要件です。
これは、特定の国家資格を保有しているか、あるいは定められた年数以上の実務経験を有していることが求められます。
具体的には、建設業許可を取得する際に営業所に置く「営業所技術者」に求められる資格・経験と基本的に同じです。
① 主任技術者:
2級の施工管理技士や建築士、10年以上の実務経験など(一般建設業許可の営業所技術者要件に準ずる)
② 監理技術者:
1級の施工管理技士や建築士など(特定建設業許可の営業所技術者要件に準ずる)
1-2. 要件②:直接的かつ恒常的な雇用関係
二つ目は、技術者と建設業者との間の関係性に関する要件です。
現場に配置される技術者は、その工事を請け負った建設業者と、直接的かつ恒常的な雇用関係にあることが必要です。
これは、出向者や派遣社員ではなく、正社員など、その企業の正規の従業員でなければならないことを意味します。
このルールは、工事に対する技術者の責任の所在を明確にし、安定した施工管理体制を確保するために定められています。
2「営業所技術者」と「現場の技術者」の兼務は可能か?
ここが最も重要なポイントであり、多くの経営者様が悩む部分です。
「営業所にいる技術者に、現場の技術者も兼務させることはできないのか?」という疑問について解説します。
2-1. 原則は「兼務不可」
まず原則として、営業所技術者と、現場に「専任」で配置される主任技術者・監理技術者は、兼務することができません。
なぜなら、それぞれの職務内容と勤務場所が明確に異なるからです。
① 営業所技術者:
営業所に常勤し、請負契約の見積もりや入札、契約締結といった、営業活動における技術的なサポートを行うのが主たる職務です。
② 現場の技術者:
工事現場に専任(その工事に専従)し、施工計画の作成や工程・品質・安全管理といった、現場の技術的な管理を行うのが主たる職務です。
勤務場所も職務内容も異なるため、一人の人間が同時に両方の責任を完全に果たすことは不可能である、というのが法律の基本的な考え方です。
2-2. 例外的に「兼務可能」となるケース
しかし、この原則には重要な例外があります。以下の条件を満たす場合には、営業所技術者が現場の主任技術者・監理技術者を兼務することが認められています。
① 当該営業所において契約を締結した工事であること。
② 工事現場と営業所が近接し、常時連絡がとれる体制にあること。
③ 当該工事が、技術者の「専任」を必要としない工事であること。
技術者の「専任」が求められるのは、公共性のある重要な工事で、請負金額が4,500万円(建築一式は9,000万円)以上のものです。
つまり、この金額に満たない工事であれば、上記の①と②の条件を満たすことで、営業所技術者と現場技術者の兼務が可能となります。
これは、中小の建設業者にとって、人材を効率的に活用する上で非常に重要なルールです。
3所属営業所は関係ない!技術者の柔軟な配置
もう一つ、よくある誤解が、「A営業所が受注した工事には、A営業所に所属する技術者しか配置できないのではないか?」というものです。
3-1. 大切なのは「雇用関係」のみ
結論から言うと、主任技術者・監理技術者の配置において、その技術者がどの営業所に所属しているかは、全く関係ありません。
法律が求めているのは、あくまで「その会社との直接的・恒常的な雇用関係」です。
したがって、例えば、岩手県盛岡市の本社に所属している技術者が、北上市の支店が契約した工事の主任技術者として、その現場に配置されることは、何ら問題ありません。
このルールを正しく理解することで、企業は全社的な視点から、より柔軟で効率的な技術者の配置計画を立てることが可能になります。
4整理
主任技術者・監理技術者の配置ルールは、一見すると複雑です。
しかし、その根底にあるのは「営業所の技術的な拠点としての役割」と「工事現場の技術的な管理責任」とを明確に分けるという考え方です。
この原則と例外を正しく理解することで、法令を遵守しつつも、限られた人材という経営資源を最大限に有効活用する道が拓けます。
自社の技術者配置が適法であるか、そして効率的であるか、この機会にぜひ一度見直してみてはいかがでしょうか。
5まとめ
建設業における技術者の配置ルールは、企業のコンプライアンスと経営効率の両方に直結する重要なテーマです。
「営業所技術者」と「現場の技術者」の兼務可否など、その解釈は複雑で、誤った運用は許可の維持に関わる問題に発展しかねません。
「自社の技術者配置は、このままで大丈夫だろうか?」といったご不安や、より効率的な人員配置に関するご相談は、ぜひ専門家にお任せください。
当事務所は、建設業法務の専門家として、最新の法令に基づき、貴社の実情に合わせた最適なコンプライアンス体制の構築をサポートします。
元岩手県職員としての経験と他士業との連携を活かし、貴社の事業運営を力強く支援いたします。
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