営業キャッシュフローの改善

「決算書上は黒字なのに、なぜか手元にお金が残らない…」
「営業キャッシュフローという言葉を耳にするけれど、一体何を意味していて、どうすれば良くなるの?」
「経審のY点評価を上げるために、営業キャッシュフローについて具体的に知りたい!」

こんなお悩みや疑問をお持ちの建設業の経営者様、ご担当者様も多いのではないでしょうか。

ご安心ください。
そのお悩み、この記事を読めばスッキリ解消への道筋が見えてきます。

経営事項審査(経審)における経営状況分析(Y点)の重要な評価指標の一つ、「営業キャッシュフロー」。

この指標が示す企業の「現金を稼ぐ力」、計算方法の概要、そしてY点評価を高め、会社の資金繰りを楽にするための具体的な改善策を、分かりやすく徹底解説します。

今回の提案は、建設業許可を取得されている皆様が、営業キャッシュフローへの理解を深め、健全な資金繰りと経審評価向上を両立させ、企業の持続的成長に繋げるためのお困りごとを解決する内容としてご紹介します。

経営事項審査(経審)の経営状況分析(Y点)は、企業の財務状況を多角的に評価するものですが、その中でも「営業キャッシュフロー」は、企業の生命線ともいえる「現金を稼ぐ力」を直接的に示す、極めて重要な指標です。

「勘定合って銭足らず」という言葉があるように、たとえ帳簿上は黒字であっても、手元の現金が不足すれば企業は立ち行かなくなります。いわゆる「黒字倒産」のリスクです。

今回は、この営業キャッシュフローに焦点を当て、その意味から具体的な改善策までを詳しく解説していきます。

1営業キャッシュフローの概要-企業の「現金創出力」を示す指標

まず、営業キャッシュフローがY点評価においてどのような指標なのか、その基本的な意味合いを理解しましょう。

1-1. 本業でどれだけ現金を生み出しているか

営業キャッシュフロー(営業CF)とは、企業が本業である事業活動を通じて、一定期間内にどれだけの現金(キャッシュ)を生み出したか、あるいは失ったかを示す数値です。

損益計算書の「利益」が会計上の収益と費用の差額であるのに対し、営業キャッシュフローは、実際のお金の出入り(キャッシュ・インとキャッシュ・アウト)に着目した指標です。

この数値がプラスで大きいほど、企業は本業で潤沢な現金を稼ぎ出しており、資金繰りが健全で、借入金の返済や新たな投資に回せる余力があると評価されます。

1-2. 中小企業における重要性

ユーザー様ご提示の本文にもありましたが、Y点評価における営業キャッシュフローの評点ウェイトは、他の指標と比較して、特に売上規模が10億円以下の中小建設業者にとっては、それほど高くないという見方もあります。
しかし、これはあくまで経審の評点算出上の話です。

企業経営の実態としては、資金繰りの健全性を示す営業キャッシュフローの重要性は、企業の規模に関わらず極めて高いと言えます。
また、今後事業を拡大し、より大きな公共工事に挑戦していく上では、この指標への理解と管理は不可欠です。キャッシュフロー計算書の作成義務がない中小企業が多いからこそ、その基本的な考え方を理解しておくことが重要になります。

1-3. 3種類のキャッシュフローの中での位置づけ

企業のキャッシュフローは、大きく分けて以下の3種類に分類されますが、経審のY点で評価対象となるのは、このうちの「営業キャッシュフロー」のみです。

・営業キャッシュフロー: 本業の営業活動によるお金の増減
・ 投資キャッシュフロー: 設備投資や有価証券の売買など、投資活動によるお金の増減
・ 財務キャッシュフロー: 借入や返済、増資など、財務活動によるお金の増減

2Y点における営業キャッシュフローの計算方法(概要)

経審の経営状況分析(Y点)では、2期分の決算書を基に算出した「2期平均の営業キャッシュフロー」を評価します。
その計算式は少し複雑ですが、ここではその構造を簡略化して見ていきましょう。

2-1. Y点評価で使われる計算式

営業キャッシュフロー評価額 = 営業キャッシュフロー(2期平均) ÷ 1億円

※この計算結果の絶対額が大きいほど、高い評価を得られます。

2-2. 営業キャッシュフロー算出の考え方(間接法ベース)

キャッシュフロー計算書の作成義務がない中小企業のために、経審では貸借対照表と損益計算書の数値から、以下のような流れで営業キャッシュフローを算出します(簡易的な間接法)。

  1. 出発点: 経常利益に、現金支出を伴わない費用である「減価償却費」を足し戻します。
  2. 営業活動に関わる資産・負債の増減を調整:
    ⑴ 売上債権(受取手形、完成工事未収入金)の増加額を差し引く:
    売上が立っても、まだ現金として回収できていない分はマイナスします。

⑵ 棚卸資産(未成工事支出金、材料貯蔵品)の増加額を差し引く:
在庫が増えた分は、現金が在庫に変わったと考えられるためマイナスします。

⑶ 仕入債務(支払手形、工事未払金)の増加額を加算する:
仕入れをしても、まだ現金を支払っていない分は手元に現金が残っているためプラスします。

⑷ 未成工事受入金の増加額を加算する:
工事の前受金が増えれば、手元の現金が増えるためプラスします。

この複雑な計算を覚える必要はありません。
重要なのは、次のセクションで解説する「どの項目が増えれば(減れば)営業キャッシュフローが良くなるのか」というポイントを理解することです。

3営業キャッシュフロー改善のポイント

ユーザー様ご提示の本文にあった要点を基に、営業キャッシュフローを改善するための基本的な考え方を整理します。
これは、貸借対照表の特定の項目を増減させることに集約されます。

3-1. 小さくすべき資産項目

以下の資産項目は、前期末に比べて当期末の残高が小さく(減少して)いれば、営業キャッシュフローを増加させる要因となります。

① 受取手形
② 完成工事未収入金(売掛金)
③ 未成工事支出金(仕掛品)
④ 材料貯蔵品(在庫)

これらは、言い換えれば「まだ現金化されていない資産」や「現金が形を変えたもの」です。これらの資産が減少するということは、それらが現金に変わった(売掛金が回収された)、あるいはそもそも現金を使っていない(在庫を減らした)ことを意味するため、営業キャッシュフローにとってはプラスに働きます。

3-2. 大きくすべき負債項目

以下の負債項目は、前期末に比べて当期末の残高が大きく(増加して)いれば、営業キャッシュフローを増加させる要因となります。

① 支払手形
② 工事未払金(買掛金)
③ 未成工事受入金(前受金)
④ 貸倒引当金

これらは、言い換えれば「支払いを猶予してもらっているお金」や「先にもらったお金」です。
これらの負債が増加するということは、その分だけ現金の支出が抑えられ、手元に現金が残っている状態を意味するため、営業キャッシュフローにとっては一時的にプラスに働きます。

ただし、ここで注意が必要です。
仕入債務(支払手形、工事未払金)の増加は、支払遅延の表れである可能性もあり、過度に増加させることは取引先との信用問題に発展しかねません。

あくまで、資金繰り改善の一時的な効果として理解し、健全な範囲での管理が求められます。

4具体的な改善策-健全な資金繰りを実現するために

上記のポイントを踏まえ、営業キャッシュフローを恒常的に改善していくための具体的な経営戦略について解説します。

4-1. 売上債権(売掛金)の早期回収を徹底する

営業キャッシュフロー改善において最も重要かつ効果的な施策の一つです。
① 請求書発行の迅速化:
工事完了後、速やかに請求書を発行し、入金までのリードタイムを短縮します。
② 回収サイトの短縮交渉:
新規契約時や契約更新時に、可能な範囲で入金サイトの短縮を交渉します。
③ 入金管理の徹底:
入金予定日を管理し、遅延が発生した場合には速やかに督促を行います。

4-2. 棚卸資産(在庫)の圧縮と適正化

過剰な在庫は資金を寝かせ、キャッシュフローを悪化させる大きな要因です。
① 定期的な在庫確認:
定期的に実地棚卸を行い、不要な資材や長期間動いていない在庫(デッドストック)を把握し、処分を検討します。
② 発注管理の最適化:
工事の進捗に合わせて必要な資材を必要な分だけ発注する、ジャストインタイムの考え方を取り入れ、過剰な在庫を持たない体制を築きます。

4-3. 仕入債務(買掛金)の支払サイトの適正化

手元資金を確保する上で、支払サイトを可能な範囲で長くしてもらう交渉も有効です。
ただし、前述の通り、これは取引先との力関係や信頼関係に大きく依存します。

一方的な支払遅延は信用を損なうため、あくまで双方合意の上で、健全な範囲での支払サイトを設定することが重要です。

4-4. 前受金の積極的な活用

特に工期が長い工事の場合、契約時に着手金や中間金といった前受金を受け取る交渉を行うことで、工事期間中の資金繰りを大幅に安定させ、営業キャッシュフローを改善することができます。

4-5. 利益率の高い経営の実践

そもそも、営業キャッシュフローの源泉は、本業で生み出される利益です。
原価管理を徹底し、付加価値の高いサービスを提供することで、利益率の高い経営を実践し、安定的に現金を稼ぎ出す力をつけることが、最も本質的な改善策と言えるでしょう。

これらの取り組みは、単に経審のY点評価を上げるためだけでなく、「黒字倒産」のリスクを回避し、企業の財務体質を強化して持続的な成長を実現するために不可欠な経営管理そのものです。

5まとめ

経営事項審査(経審)における「営業キャッシュフロー」は、損益計算書の利益だけでは見えてこない、貴社の「現金を稼ぐ力」、つまり資金繰りの健全性を示す重要な指標です。

この数値を改善することは、Y点評価を向上させるだけでなく、黒字倒産のリスクを回避し、安定した企業経営を実現するための鍵となります。

売上債権の早期回収や棚卸資産の圧縮といった具体的な改善策は、日々の経営管理の中で意識し、実践していくことが可能です。

しかし、「自社のキャッシュフローのどこに問題があるのか分からない」「改善策は分かっても、どう実行すれば良いのか…」といったお悩みも尽きないことでしょう。

当事務所は、建設業許可や経営事項審査(経審)を専門とし、岩手県内を中心に全国の建設業者様の財務分析サポートや評点アップ戦略のご提案を行っております。

元県職員としての知見と、税理士・中小企業診断士など他士業との強力な連携を活かし、貴社の「無限の可能性」を最大限に引き出すお手伝いをいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。

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