
「経審のY点の評価項目にある『負債回転期間』って、具体的に何を意味するの?」
「うちの会社の負債回転期間は適正なんだろうか…」
「この数値を良くするためには、どんな対策をすれば効果的なの?」
こんなお悩みや疑問をお持ちの建設業の経営者様、財務ご担当者様はいらっしゃいませんか。
ご安心ください。
そのお悩み、この記事を読めば解決の方向性が見えてきます。
経営事項審査(経審)における経営状況分析(Y点)の重要な評価指標の一つ、「負債回転期間」。
この指標が示す意味、計算方法、そしてY点評価を高めるために企業が取り組むべき具体的な改善策を、分かりやすく徹底解説します。
今回の提案は、建設業許可を取得されている皆様が、負債回転期間への理解を深め、適切な財務管理によってY点評価を改善し、企業の資金繰り安定と競争力強化に繋げるためのお困りごとを解決する内容としてご紹介します。
経営事項審査(経審)における経営状況分析(Y点)は、建設業者の財務体質を多角的に評価するものです。
その中でも「負債回転期間」は、企業の負債が売上高に対してどれくらいの期間で回転しているか、つまり負債の支払い能力や資金繰りの健全性を示す重要な指標です。
この指標を良好な状態に保つことは、Y点全体の評価向上に繋がり、ひいては公共工事の受注競争において有利なポジションを確保するために不可欠です。
今回は、この負債回転期間に焦点を当て、その概要から具体的な改善策までを詳しく解説していきます。
1負債回転期間の概要
まず、負債回転期間が経審のY点評価においてどのような指標なのか、その基本的な意味合いを理解しましょう。
1-1. 企業の負債支払い能力を測る指標
負債回転期間とは、企業が抱える負債総額(流動負債と固定負債の合計)を、月間の売上高で返済すると仮定した場合に、何か月かかるかを示す数値です。
簡単に言えば、「負債が月商の何か月分に相当するか」を表しており、この期間が短いほど、企業は売上に対して負債の負担が軽く、支払い能力が高い(資金繰りが健全である)と評価されます。
逆に、期間が長い場合は、売上規模に対して負債が過大であるか、資金繰りに余裕がない状態を示唆している可能性があります。
1-2. 評価の方向性
経審のY点評価において、負債回転期間はその数値が小さい(期間が短い)ほど良い評価(高い評点)を得られます。
したがって、企業経営においては、この期間をいかに短縮するかが重要なポイントとなります。
1-3. 他の財務指標との関連性
負債回転期間は、自己資本比率や流動比率といった他の安全性を示す財務指標とも密接に関連しています。
例えば、自己資本比率が高く借入金への依存度が低い企業は、一般的に負債回転期間も短くなる傾向があります。
これらの指標を総合的に見ることで、企業の財務的な安定性をより深く理解することができます。
2負債回転期間の計算式とその構造
負債回転期間がどのように算出されるのか、その計算式と各要素の意味を把握しましょう。
2-1. 基本的な計算式
負債回転期間は、以下の計算式で算出されます。
★負債回転期間 = (流動負債 + 固定負債) ÷ (売上高 ÷ 12ヶ月) (ヶ月)
⑴分子(流動負債 + 固定負債):
貸借対照表の負債の部に計上される負債の総額を意味します。
流動負債(買掛金、支払手形、短期借入金、未払金など1年以内に支払期限が到来する負債)と固定負債(長期借入金、社債など支払期限が1年を超える負債)の合計です。
⑵分母(売上高 ÷ 12ヶ月):
損益計算書の売上高を12で割ったもので、月平均の売上高を示します。
2-2. 計算結果の解釈
例えば、負債総額が6,000万円で、年間売上高が1億2,000万円(月平均売上高1,000万円)の場合、負債回転期間は「6,000万円 ÷ 1,000万円/月 = 6ヶ月」となります。
これは、現在の負債をすべて返済するのに、平均的な月商の6ヶ月分が必要であることを意味します。
3負債回転期間を改善するための基本的な考え方
計算式からも分かる通り、負債回転期間を短縮する(評価を良くする)ための基本的なアプローチは、以下の2点です。
3-1. 分子を小さくする
これが最も直接的かつ効果的な改善策です。
借入金の返済を進めたり、買掛金や支払手形といった仕入債務を適切に管理したりすることで、負債の総額を減らすことを目指します。
3-2. 分母を大きくする
売上高が増加すれば、相対的に負債の負担は軽くなります。
ただし、ここで注意が必要なのは、ユーザー様ご提供の本文にもあった通り、「売上が上がったとしても、その分負債が増えてしまうと、数値(負債回転期間)が下がることがあります(悪化することがあります)」という点です。
特に急激な売上増加局面では、運転資金需要が増大し、それを賄うために新たな借入金が増加したり、仕入債務が膨らんだりすることがあります。
その結果、売上は伸びたものの、それ以上に負債が増加し、かえって負債回転期間が長期化してしまうというケースも少なくありません。
したがって、売上増加を目指す際には、それに伴う資金需要をしっかりと予測し、財務バランスを崩さないような資金調達計画や利益計画が不可欠です。
単に売上規模を追うだけでなく、利益を伴った質の高い売上を確保することが重要です。
4具体的な改善策
負債回転期間の改善において、特に中小建設業者が取り組みやすく、また効果が期待できる「負債を小さくする方法」について、具体的な対策を見ていきましょう。
ただし、これらの対策を実行する際には、必ず企業の現状の資金繰りや経営戦略全体との整合性を考慮し、専門家(税理士や行政書士など)にも相談しながら慎重に進めることが大切です。
4-1. 借入金の戦略的な管理と返済
4-1-1. 資金繰りに余裕がある場合の繰上げ返済
手元資金に十分な余裕がある場合には、既存の借入金を期限前に一部または全部返済する「繰上げ返済」を検討します。
これにより、直接的に負債総額を削減し、支払利息の軽減にも繋がります。
ただし、これはあくまで運転資金や将来の投資資金を確保した上での判断であり、無理な繰上げ返済は資金繰りを圧迫する可能性があるため注意が必要です。
4-1-2. 決算期末の借入金残高への配慮(慎重な検討が必要)
ユーザー様ご提示の本文にあった「決算日の前日に返済をして、決算日の翌日に新たに借入れを行う」という手法は、決算日時点での借入金残高を一時的に圧縮し、見かけ上の負債回転期間を短縮させることを意図したものと考えられます。
このような操作は、金融機関との信頼関係や会計処理の適正性の観点から、必ずしも推奨されるものではありません。
資金移動の証拠を残すことは当然ですが、その実質的な経済効果や倫理性を十分に考慮し、安易に行うべきではないでしょう。
むしろ、中長期的な視点で借入金依存度を低減していく経営努力が本質的です。
4-2. 在庫管理の最適化による仕入債務の圧縮
4-2-1. 過剰在庫のリスク
建設業においても、資材等の在庫管理は重要です。
在庫が過剰な状態(デッドストック)は、資金を寝かせるだけでなく、その購入代金が買掛金や支払手形として負債を増加させている可能性があります。
4-2-2. 定期的な棚卸と適正在庫の維持
定期的に実地棚卸を行い、在庫の数量や状態を正確に把握することが第一歩です。
その上で、過去の工事実績や将来の受注見込みなどを考慮し、適切な発注管理によって過剰在庫を抱えないように努めます。
ジャストインタイムに近い形での資材調達も、在庫圧縮には有効です。
4-3. 決算日の戦略的な見直し
4-3-1. 繁忙期と決算日のミスマッチ
もし、企業の繁忙期と決算日が重なっている場合、工事代金の未回収(売掛金)が多い一方で、外注費や材料費の支払い(買掛金・未払金)が膨らみ、一時的に負債が増加しやすい傾向があります。
また、繁忙期には資金需要が高まり、短期的な借入金が増えることも考えられます。
4-3-2. 決算期変更の検討
事業のサイクルを考慮し、比較的資金繰りが安定し、業務量が落ち着いている時期を決算日とすることで、決算書上の負債額を抑制できる可能性があります。
ただし、決算期の変更は税務署への届出が必要であり、事業年度の区切りが変わることによる影響も考慮する必要があります。
4-4. 工事契約における会計基準の選択
4-4-1. 未成工事受入金と負債の関係(工事完成基準の場合)
工事完成基準を採用している場合、工事が完成し引き渡されるまでは売上が計上されず、顧客から受け取った前受金(手付金や中間金)は「未成工事受入金」として負債の部に計上されます。
特に工期が長い大規模工事などでは、この未成工事受入金が多額になり、負債総額を押し上げる要因となります。
4-4-2. 工事進行基準によるメリット
一方、工事進行基準を採用すれば、工事の進捗度合いに応じて売上と原価を計上できるため、前受金が売上として認識されやすくなり、結果として未成工事受入金という負債の発生を抑制できます。
これは、負債回転期間の短縮に繋がり、特に今後さらに売上を伸ばしたい、大きな規模の建設業務を増やしたいと考える企業にとっては有利な会計処理方法と言えるでしょう。
ただし、工事進行基準の適用には、工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度を信頼性をもって見積もることができるという条件があります。
4-5. DES(デット・エクイティ・スワップ)の活用
4-5-1. DESとは?
DES(Debt Equity Swap)とは、企業が抱える債務(Debt)を株式(Equity)に転換する手法です。
例えば、社長個人が会社に対して貸付金(役員借入金)を持っている場合に、その貸付金を現物出資する形で会社に増資を行い、社長が株式を取得するといった形で行われます。
4-5-2. 負債削減と自己資本増強の同時実現
DESを実行すると、会社にとっては借入金という負債が減少し、同時に資本金(または資本準備金)という自己資本が増加します。
これにより、負債回転期間の短縮だけでなく、自己資本比率の向上など、財務体質の大幅な改善が期待できます。
4-5-3. DES実行時の注意点
DESは強力な財務改善手法ですが、実行にあたっては、株式評価の問題、税務上の取り扱い(適格現物出資に該当するかどうか等)、株主構成の変化といった専門的な検討が必要です。
必ず税理士や行政書士などの専門家と十分に協議した上で進める必要があります。
4-6. その他の負債削減策
⑴未払金の早期清算:
支払いが遅延している未払金(社会保険料、税金、経費など)があれば、速やかに支払い、負債を減らします。
⑵遊休資産の売却と借入金返済への充当:
事業に使用していない土地、建物、機械設備などの遊休資産を売却し、その売却代金を借入金の返済に充てることで、負債を圧縮し、同時に固定資産の効率化も図れます。
これらの施策は、単独で行うよりも複数を組み合わせたり、企業の状況に合わせて優先順位をつけたりすることが重要です。
いずれにしても、負債回転期間の改善は、場当たり的な対応ではなく、中長期的な視点に立った経営戦略と財務計画に基づいて取り組むべき課題です。
5まとめ
経営事項審査(経審)における「負債回転期間」は、貴社の資金繰りの健全性や財務的な安定性を示す重要な指標です。
この期間を適切に管理し、改善していくことは、Y点評価の向上だけでなく、金融機関からの信頼獲得や、持続的な企業成長の基盤となります。
分子である負債の圧縮(繰上げ返済、在庫管理、DESの活用など)と、分母である売上高の質の高い増加、この両面からのアプローチが改善の鍵となります。
しかし、これらの施策は専門的な判断を伴うものが多く、また、一つの指標だけを追い求めることが必ずしも最善とは限りません。
当事務所は、建設業許可や経営事項審査(経審)を専門とし、岩手県内を中心に全国の建設業者様の財務分析サポートや評点アップ戦略のご提案を行っております。
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