総資本売上総利益率UP

「経審のY点評価項目にある『総資本売上総利益率』って、一体何を意味しているの?」
「うちの会社のこの数値、良いのか悪いのか判断がつかない…」
「この比率を改善して、Y点全体の評価を上げるには、具体的にどんな対策をすれば効果的なんだろう?」
こんなお悩みや疑問を抱えていらっしゃる建設業の経営者様、財務ご担当者様はいらっしゃいませんか。

ご安心ください。
そのお悩み、この記事を読めば解決のヒントが見つかります。経営事項審査(経審)における経営状況分析(Y点)の重要な評価指標の一つ、「総資本売上総利益率」。

この指標が示す企業の収益性と効率性、計算方法、そしてY点評価を高めるために企業が取り組むべき具体的な経営戦略や会計上のポイントを、分かりやすく徹底解説します。

今回の提案は、建設業許可を取得されている皆様が、総資本売上総利益率への理解を深め、的確な経営判断と財務管理によってY点評価を改善し、企業の収益力強化と競争力向上に繋げるためのお困りごとを解決する内容としてご紹介します。

経営事項審査(経審)において、企業の財務状況を評価する経営状況分析(Y点)は、建設業者の総合的な実力を測る上で欠かせない要素です。

そのY点を構成する8つの指標の中でも、「総資本売上総利益率」は、企業が保有する全ての資本をいかに効率的に活用し、本業の基本的な利益である売上総利益(粗利益)を生み出しているかを示す、収益性と効率性の核心的指標と言えます。

この比率を高めることは、Y点全体の評価向上に直結し、公共工事受注における競争力強化にも繋がります。

今回は、この総資本売上総利益率について、その意味から具体的な改善策までを深掘りしていきます。

1総資本売上総利益率の概要

まず、総資本売上総利益率が経審のY点評価においてどのような役割を果たし、どのように算出されるのか、基本的な事項を整理しましょう。

1-1. 企業全体の資本効率と収益力を示す指標

総資本売上総利益率とは、企業が事業活動に投下している総資本(負債と純資産の合計、つまり貸借対照表の資産合計額)を使って、どれだけの売上総利益(売上高から売上原価を差し引いた利益、いわゆる粗利益)を稼ぎ出せているかを示す財務指標です。

簡単に言えば、「会社全体の元手を使って、どれだけ効率よく粗利を稼いでいるか」を測るものであり、企業の基本的な収益獲得能力と資本の運用効率を総合的に評価します。

1-2. 評価の方向性

経審のY点評価において、総資本売上総利益率は、その数値が高いほど良い評価(高い評点)を得られます。
つまり、企業経営においては、この比率をいかに高めるかが重要な課題となります。

1-3. 計算式とその構成要素

総資本売上総利益率は、以下の計算式で算出されます。

★ 総資本売上総利益率 = 売上総利益 ÷ 総資本(2期平均) × 100 (%)

①分子(売上総利益):
損益計算書に記載される「売上総利益」です。
これは、完成工事高だけでなく、兼業事業(例えば不動産賃貸収入や物品販売など、建設業以外の事業)がある場合は、その兼業事業に係る売上総利益も合算した数値となります。
つまり、企業全体の事業活動から生み出される粗利益の総額が評価対象です。

②分母(総資本(2期平均)):
貸借対照表の「資産合計」の額を指します。
経審では、より安定的な評価を行うため、当期末と前期末の総資本の平均値(2期平均)が用いられるのが一般的です。

この計算式から、総資本売上総利益率を高めるためには、分子である「売上総利益」を増やすか、分母である「総資本(2期平均)」を減らすか、あるいはその両方を同時に達成する必要があることが分かります。

2分子を増やす戦略

総資本売上総利益率を改善するための最も直接的なアプローチは、分子である「売上総利益」を増やすことです。

これは、企業の収益力の根幹に関わる部分であり、具体的な施策としては以下の点が挙げられます。

2-1. 利益率の高い工事・事業の選択と集中

すべての工事や事業が同じ利益率を生み出すわけではありません。
過去の実績を分析し、自社の得意分野や技術力を活かせる、より利益率の高い工事案件や事業分野に経営資源を重点的に投入することを検討しましょう。
薄利多売の戦略も一概に否定されるものではありませんが、経審評価の観点からは、質の高い利益を確保することが重要です。

2-2. 工事原価の徹底的な管理と削減

売上総利益は「売上高 - 売上原価」で計算されるため、売上高が同じでも、売上原価を低減できれば利益は増加します。

2-2-1. 材料費の見直し:
⑴仕入れ先の比較検討:
複数の仕入れ先から相見積もりを取り、価格だけでなく品質、納期、支払い条件などを総合的に比較検討します。

⑵共同購入や一括購入:
同業者との共同購入や、一定量をまとめて購入することによるボリュームディスカウントの交渉も有効です。

⑶市場価格の継続的な把握:
建設資材の市場価格は常に変動します。
業界情報誌やインターネット、同業者からの情報収集などを通じて、常に最新の価格動向を把握し、有利な条件での仕入れを目指しましょう。

⑷新規仕入れ先の開拓:
既存の取引先に依存するだけでなく、新たな仕入れ先を積極的に開拓することで、より競争力のある価格や条件を引き出せる可能性があります。

2-2-2. 外注費の適正化:

⑴外注先の選定:
コストだけでなく、技術力、信頼性、過去の実績などを総合的に評価し、最適な外注先を選定します。

⑵明確な契約条件:
作業範囲、責任範囲、品質基準、支払い条件などを契約書で明確にし、後々のトラブルや追加費用の発生を防ぎます。

⑶内製化の検討:
外注に頼っている業務の一部を、自社の技術力向上と合わせて内製化することで、コスト削減と技術蓄積に繋がる場合もあります。

2-2-3. 労務費管理の効率化:
⑴適材適所の人員配置:
現場の状況や作業内容に応じて、適切なスキルを持つ人員を効率的に配置します。

⑵生産性向上への取り組み:
新技術の導入、作業手順の見直し、多能工育成などにより、一人当たりの生産性を高め、労務費の無駄を省きます。

2-2-4. 現場経費の削減:
仮設費、重機レンタル費、運搬費など、現場で発生する諸経費についても、無駄がないか常にチェックし、削減努力を行います。

2-3. 安易な値引き競争からの脱却

受注を確保するために、安易な値引きに応じてしまうことは、売上総利益を大きく損なう要因となります。
ユーザー様ご提示の本文にもありましたが、粗利益から販売費及び一般管理費(販管費)を差し引いたものが営業利益となるため、値引きによって粗利益が大幅に減少すると、最悪の場合、営業利益が赤字になってしまうこともあり得ます。

自社の技術力やサービスの付加価値を正当に評価してもらい、適正な価格で受注できるよう、価格競争だけに頼らない営業戦略(例えば、高品質な施工、独自の技術提案、顧客との信頼関係構築など)を強化することが重要です。

2-4. 兼業事業の収益性向上

建設業以外の兼業事業(不動産賃貸、物品販売、コンサルティングなど)を行っている場合は、それらの事業の売上総利益も評価対象となります。
兼業事業の収益性を高めることも、企業全体の総資本売上総利益率の改善に貢献します。

3分母を小さくする戦略

総資本売上総利益率の改善には、分子である売上総利益を増やすだけでなく、分母である「総資本」を圧縮する、つまり貸借対照表をできるだけコンパクトにすることも有効な手段です。

これは、企業が保有する資産を効率的に活用し、無駄な資産を持たないようにすることを意味します。

3-1. 借入金の計画的な返済と抑制

借入金は負債として総資本を増加させる大きな要因の一つです。
⑴自己資金による返済:
利益の内部留保や増資などによって得られた自己資金で借入金を計画的に返済していくことで、総資本を圧縮できます。

⑵有利子負債の削減:
特に金利負担の大きい借入金から優先的に返済することで、支払利息の軽減にも繋がり、収益性の改善にも寄与します。

3-2. 過剰在庫の削減と適正な在庫管理

建設資材などの在庫は、貸借対照表上「棚卸資産」として資産計上され、総資本を増加させます。

⑴デッドストックの把握と処分:
長期間使用されていない不要な在庫(デッドストック)を把握し、早期に処分することで、在庫圧縮と資金化を図ります。

⑵発注管理の最適化:
過剰な仕入れを避け、必要な時に必要な量だけを調達するジャストインタイムに近い在庫管理を目指すことで、棚卸資産を低く抑えることができます。

3-3. 売掛金・受取手形の早期回収

売掛金や受取手形といった売上債権も、回収されるまでは企業の資産として総資本を構成します。
これらの回収サイトを短縮し、早期に現金化することで、総資本の圧縮と資金繰りの改善に繋がります。

3-4. 遊休資産・低稼働資産の売却または有効活用

事業に使用されていない土地、建物、機械設備などの遊休資産や、稼働率の低い資産は、保有しているだけで維持管理コストがかかり、総資本を圧迫します。

⑴売却による資金化:
不要な資産は思い切って売却し、その代金を借入金の返済や運転資金に充当することで、総資本を圧縮し、財務体質を強化できます。

⑵有効活用策の検討:
売却が難しい場合は、賃貸に出す、他の事業に転用するなど、収益を生む形での有効活用を検討します。

3-5. 保険積立金の適正化

企業が加入している生命保険などの積立型保険は、解約返戻金相当額が資産として計上される場合があります。
事業保障や退職金準備として必要な範囲を超えた過大な保険積立金は、総資本を増加させる要因となり得ます。
保険の加入目的や保障内容、積立金の状況などを定期的に見直し、必要に応じて解約や減額を検討することも、総資本圧縮の一つの手段です。

3-6. 決算日の戦略的変更の検討(間接的効果)

決算日を、売掛金や買掛金、棚卸資産が比較的少なくなる時期(事業の閑散期など)に設定することで、決算書上の総資本額を一時的に低く抑えることができる場合があります。

これは、総資本売上総利益率の分母を小さくする間接的な効果が期待できますが、他の財務指標への影響や税務上の手続きなども考慮し、慎重に検討する必要があります。

これらの施策を通じて総資本をスリム化することは、単に総資本売上総利益率を改善するだけでなく、ROA(総資本利益率)など他の資本効率を示す指標の改善にも繋がり、企業全体の経営効率を高める上で非常に重要です。

4継続的な取り組み

総資本売上総利益率の改善は、一度きりの対策で達成できるものではありません。
経営戦略に基づいた継続的な取り組みと、定期的な効果測定、そして必要に応じた軌道修正が不可欠です。

4-1. 定期的な財務分析と目標設定

少なくとも決算ごと、できれば月次や四半期ごとに、総資本売上総利益率をはじめとする主要な財務指標を算出し、その推移をモニタリングしましょう。
そして、具体的な改善目標値を設定し、その達成に向けたアクションプランを策定・実行します。

4-2. 従業員への意識共有と協力体制の構築

原価意識の徹底や生産性向上といった取り組みは、経営者だけでなく、現場で働く従業員一人ひとりの理解と協力があって初めて効果を発揮します。
なぜこれらの取り組みが必要なのか、それが会社の成長や従業員の待遇改善にどう繋がるのかを丁寧に説明し、全社的な協力体制を築くことが重要です。

4-3. 専門家(行政書士、税理士等)との連携

経審の評価基準や会計処理、税務に関する専門的な知識は、常に最新の情報を把握しておく必要があります。

自社だけで全てをカバーするのは困難な場合も多いため、経験豊富な行政書士や税理士といった専門家と積極的に連携し、的確なアドバイスやサポートを受けることが、効果的な改善策の実行に繋がります。

総資本売上総利益率を高めることは、企業の「稼ぐ力」と「効率性」を磨き上げることと同義です。
この指標を意識した経営を実践することで、経審評価の向上はもちろんのこと、より強固で持続可能な企業体質を築き上げていくことができるでしょう。

5まとめ

経営事項審査(経審)における「総資本売上総利益率」は、貴社が持つ資本をいかに効率的に活用し、本業の基本的な利益である粗利益を生み出しているかを示す、収益性の核心的な指標です。

この数値を改善することは、Y点評価、ひいては総合評定値(P点)の向上に繋がり、公共工事受注における貴社の競争力を高めます。

売上総利益の増加(原価管理の徹底、高付加価値化など)と、総資本のスリム化(遊休資産の整理、在庫の適正化など)、この両面からのアプローチが改善の鍵となります。

しかし、これらの施策は日々の経営努力の積み重ねであり、専門的な知識や戦略的な判断が求められる場面も少なくありません。

「何から手をつければ良いのか分からない」「自社のどこに改善の余地があるのか具体的に知りたい」といったお悩みは、どうぞお気軽にご相談ください。

当事務所は、岩手県北上市を拠点とし、建設業許可や経営事項審査(経審)を専門に、全国の建設業者様の成長をサポートしております。

元県職員としての経験と、他士業との連携による多角的な視点から、貴社の総資本売上総利益率改善、そして企業価値向上への「無限の可能性」を最大限に引き出すお手伝いをいたします。

6お問い合わせ

行政書士藤井等事務所
(1) お問い合わせフォーム:
https://office-fujiihitoshi.com/script/mailform/toiawase/
(2) 事務所ホームページ<トップページ>:
https://office-fujiihitoshi.com/